2017年1月20日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第五 (渡邉美保・椿屋実梛・佐藤りえ・豊里友行・石童庵・田中葉月・陽 美保子)




渡邉美保
冬に入る超絶技巧練習曲
冬紅葉武田刀剣武具の店
落葉期地下水脈は音たてて




椿屋実梛
思ひ出す職の遍歴十二月
  芝浦埠頭
冬の灯を集めてゐたる埠頭かな
訣れ来て幽かに欠けし寒の月
日輪が微笑たたへて小春の日
車輛から車輛を抜けて師走かな
冬うらら茶屋の暖簾をくぐりをり
年の瀬やビルの向かふに富士の影




佐藤りえ
貨物船帆船うなじ冬の浜
心臓も狐色かよ野を駆つて
冬ざれや四人姉妹の姉の数
寒の空ごめんと打つて三字分
梟の隣に見ゆる世界かな




豊里友行
〈冬とは云えども沖縄の冬は十度を切ることが稀なので、そこにある風土と季節をおおらかに詠む〉
好き好き好き好き芒の隙間風
水平線畳んで絞める金屏風
戀人は銀河のように濡れている
∞の釈迦の瞼貝割菜
椎茸茹で山頭火もうふふふふ
林檎剥く強がりな嘘なんて嫌
独身のパセリしゃきしゃき感が好き




石童庵
悩ましき極夜ホテルの彫刻群
男でも女でもなく虎落笛
性別は「その他」に✓冬ホテル
不機嫌なまま数へ日の一つ減る
冬の庭穴を曝せど土竜留守
七賢の不毛な議論年は逝く
熱燗や語れば聞いてくれる女将(ママ)



田中葉月

したたかに無心でありぬ冬すみれ
貧乏神たたき出されし干し布団
あめつちの神は気紛れ野紺菊
牛の舌長すぎですか冬の虹
土産とて残照つつむ神の旅




陽 美保子(「泉」同人)

冬深し諸橋轍次の虫眼鏡
寒月や行くに径に由らずの語
菊枯れて日本は漢字文化圏