2017年1月27日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第六 (下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・池田瑠那・松下カロ・浅沼 璞)




下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
寝足らぬ顔顔顔の暖房車
目も脚も頭も黒き冬烏
日へ白く影へと白く返り花




岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
此処はもう吹雪の中と手をあづく
凍鶴に月の触れゐる水面かな
薄雪や見馴れし町の屋根の向き




依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
枯れてゐる音を流して滝しづか
白い朝に冬の呼吸が始まりぬ
年詰まる塀にもたれて何か思ひ




依光陽子 (「クンツァイト」「クプラス」「屋根」)
ガサ市も消えてゆく世や帰り花
極月や指にはりつく風の端
冬に紛れけふは木賊になつてゐた




池田瑠那
旅鞄曳く石畳寒く鳴る
マトリョシカ頬に赤丸冬あたたか
大鍋にボルシチ澄める暮雪かな




松下カロ
くちびるに血の味すこし冬ざくら
雪降るや少年鷹の死を言はず
廃駅が鯨の中で燃えてゐる
くるみ割り人形なれば歯で愛す
冬ざくら拇印いくたび押しなほし




浅沼 璞
世が世ならと口々に雪ゴジラかな
やほよろづジャパン軟骨クリスマス
出刃を研ぐ目利きちがひの寒鮃