2017年2月10日金曜日

平成二十八年 冬興帖 第八 (西村麒麟・渕上信子・田中葉月・神谷波・竹岡一郎・中西夕紀・飯田冬眞・筑紫磐井・北川美美)


西村麒麟
鴨飛ぶや一メールを大げさに
よたよたとスケート場を歩き切る
最高のカレーを食べる冬ごもり
風邪薬その一粒が細長し
冬晴の飛騨より来たる円空仏



渕上信子
短句(有季定形)
泥大根を洗ふ鳶の輪
学成難し落葉掃きよせ
神有月の鞄コーラン
独りごといふ夫と加湿器
床暖眠き第三句集
夫を殺めし夢大くさめ
ハナモゲラ語の寒中見舞



田中葉月
したたかに無心でありぬ冬すみれ
貧乏神たたき出されし干し布団
あめつちの神は気紛れ野紺菊
牛の舌からめてとりぬ冬の虹
土産とて残照つつむ神の旅




神谷 波
百尾余の鰯の頭捥ぐ小春
神の留守預かるスーパームーンかな
冬の虹ひつかかつてる森の端
年の瀬や黄蝶の浮かれ出ることも

           
竹岡一郎
灯は微音立て綾取りを見守るよ
あやとりの砦は父母を拒みけり
あやとりの紐切れるまで眠らない
あやとりにかかる呪ひのなつかしき
あやとりの示す南溟航路かな
あやとりに魂からみ動けまい
屋上のあやとり穹の杭は抜け



中西夕紀
白菜の観音顔のひと並び
息白し地震の平成終り急く
腕に来て羽を閉づれば鷹小さ



飯田冬眞
池畔に売家のならび冬紅葉
笹子鳴くブルーシートのイタコ小屋
枯芙蓉素焼きの壺にあるくびれ




筑紫磐井
十二月に日が差してをり佐久間町
どしやぶりの愛は裏切る漱石忌
顔に疵 師走の街を俺が行く




北川美美
グレムリンとある家族の聖夜劇
沼にある競艇場のクリスマス 
眠らずにオーブンの前クリスマス
地下掘つて掘つて掘つてやクリスマス
クリスマスツリー逆様に吊るされて
気まぐれに教会へ行くクリスマス
聖夜果て聖菓山積み製菓店