2017年9月29日金曜日

平成二十九年 夏興帖 第五(木村オサム・青木百舌鳥・小野裕三・小林かんな・神谷 波・下坂速穂)



木村オサム(「玄鳥」)
住みやすき液晶世界真炎天
真横から茅の輪の厚み見てをりぬ
たましひの浮かぶ練習ハンモック
人質の顔で向日葵畑過ぐ
肩書はないがいい人心太


青木百舌鳥
紫陽花の染まりて空家空きがち家
午の濠鳰の一家の広くをり
鳰の子のすぐ潜りすぐ浮いてくる
降りだして親鳰に子の集まり来


小野裕三(海程・豆の木)
盛夏半島内気な足取りの僕ら
東京百景鼓動集めて星祭る
旱星航海記濃く匂い立つ


小林かんな
汗かかぬシーツ交換する真昼
夕焼のなかをゆらゆら配膳車
病棟に茄子の紺色行き渡る
盆の月病のひとの噛むちから
看護師の引継ノート揚花火


神谷 波
石亀のお産穴掘りがたいへん
瞑想にあらず石亀産卵中
石亀のがに股歩き産みをへて
家揺れる半袖のパジャマ脱ぎ掛け
炎昼もどこふく風のコニシキソウ


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
恋人にするには若き白地かな
黒髪の根にきらきらと汗生まれ
衣掛けて水を渡つてゆく蛇よ