松下カロ凍るまでぢつとしてをり写真立
氷にも水にも人の映りけり
凍るたびやはらかくなる腕と胸
岸本尚毅(「天為」「秀」)小春日の泥のやうなるカレー食ふ
ふはふはと飛ぶぼろぼろの落葉かな
しみじみと筋ばかりなる落葉かな
あをあをと落葉の下の龍の髭
憤死して落葉の宮に祀らるる
見慣れたる大海原や蜜柑食ふ
笹鳴に遠く小さく海はあり
林雅樹(澤)目嗔らせ千葉真一や寒稽古
牽かれゆく事故車に冬に日の暮るゝ
木枯をしのぐやブルーシート張り
初雪に尾立つる犬や肛門見せ
縄張のされて空地や冬の草
早瀬恵子雪の花ちょとそこまでの小宇宙
山茶花や人声ざわと人逝ける
影向(ようごう)の返り花めきご命日
杉山久子初霜や投函わすれたる手紙
シャンソンに耳そばだてる狩の犬
しぐるるや木の椅子多きブックカフェ
木村オサム(玄鳥)寒波来るウオッカの染み付けたまま
会ふたびに口紅違ふ雪女
錆びてから動かす冬の重機群
裸木に鞄を掛けて殴り合ふ
冬枯や疲れた脳の線描画