2018年1月19日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第二(松下カロ・岸本尚毅・林雅樹・早瀬恵子・杉山久子・木村オサム)



松下カロ
凍るまでぢつとしてをり写真立
氷にも水にも人の映りけり
凍るたびやはらかくなる腕と胸


岸本尚毅(「天為」「秀」)
小春日の泥のやうなるカレー食ふ
ふはふはと飛ぶぼろぼろの落葉かな
しみじみと筋ばかりなる落葉かな
あをあをと落葉の下の龍の髭
憤死して落葉の宮に祀らるる
見慣れたる大海原や蜜柑食ふ
笹鳴に遠く小さく海はあり


林雅樹(澤)
目嗔らせ千葉真一や寒稽古
牽かれゆく事故車に冬に日の暮るゝ
木枯をしのぐやブルーシート張り
初雪に尾立つる犬や肛門見せ
縄張のされて空地や冬の草


早瀬恵子
雪の花ちょとそこまでの小宇宙
山茶花や人声ざわと人逝ける
影向(ようごう)の返り花めきご命日


杉山久子
初霜や投函わすれたる手紙
シャンソンに耳そばだてる狩の犬
しぐるるや木の椅子多きブックカフェ


木村オサム(玄鳥)
寒波来るウオッカの染み付けたまま
会ふたびに口紅違ふ雪女
錆びてから動かす冬の重機群
裸木に鞄を掛けて殴り合ふ
冬枯や疲れた脳の線描画