2018年2月16日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第六(真矢ひろみ・川嶋健佑・仙田洋子・仲寒蟬・望月士郎・青木百舌鳥・下坂速穂)



真矢ひろみ
前をゆくは笠智衆らし枯木道
風花にゐる産道をゆく如く
風景に余白を探す海鼠かな
社交性無くて連夜の関東煮
相撲協会危機管理局ヒアシンス


川嶋健佑(船団の会)
  卍・・・・・雪解
音階を登れば触れる冬の雲
氷雨降り強盗団が来る不安
愛は足りてますか冬の充電器


仙田洋子
冬の川うすぼんやりと日を浮かべ
綿虫のふつと見えなくなる高さ
綿虫のまはりしいんとしてをりぬ
ゐなくなるために綿虫飛んでゐる
開戦日水族館のしづかなる
雪女郎あはれ面を伏せしまま
人類の絶滅後の日脚伸ぶ


仲寒蟬
何も足さず何も引くことなく冬田
事あらば北の守りや松葉蟹
  山盧3句
山の名を確かめてゐる冬日和
芋茎干しゐたり山盧を守りゐたり
連山初冬蛇笏もここに立たれけり
  池上本門寺2句
くろぐろと冬日を吸ひて五重塔
短日の伽藍に人のまだまだ入る


望月士郎
液晶に触れて人差指くじら
蝶凍ててページに透ける逆さ文字
鶴折ると梟が息入れに来る
ロザリオや白鳥の詩を空で言う
二択だけど鮟鱇鍋と言ってみる
ぬかりなく寒満月より縄梯子
遠火事の残像として兎の目


青木百舌鳥(夏潮)
ハンターの店よサンダルウッドの香
裸木の身の丈に日を享けにけり
日の満ちて鳥語の遠し冬至梅
樅の間にチャペル明るき雪後かな


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
冬ざれや鷺のまはりを歩む鳥
冬鳥よさくらと憶ふ切株よ
呼びたき鳥除けたき鳥や寒かりし
一鳥も寄せぬ構への寒牡丹