2018年2月2日金曜日

平成二十九年 冬興帖 第四(中村猛虎・小野裕三・山本敏倖・椿屋実梛・水岩瞳・近江文代)



中村猛虎(なかむらたけとら)
寒紅を引きて整う死化粧
遺骨より白き骨壷冬の星
葬りし人の布団を今日も敷く
木枯らしの底に透明な柩
冬ざれの遺骨に別れ花の色
極月や人焼く時の匂いして
青鮫の四十九日の宙を行く


小野裕三(海程・豆の木)
陽の射して妻の本棚冬眠のよう
大いなる遊びのごとく柚子湯かな
毛布へと絡まりながら寝る兄弟


山本敏倖(山河・豈)
次世代へ何を語るか木守柿
雪ほたる祝辞のようにらせん描く
冬銀河一粒は今頬を伝う
粉雪の向うはしかし鬼の童話


椿屋実梛
タクシーが停まってくれぬ寒夜かな
それぞれの孤独の吹雪く純喫茶
煮凝や言語化しない憂さのあり


水岩瞳
短日やあれこれそれとまだどれも
口じゆうに麦門冬湯ちやんちやんこ
冬眠すると言ひて少年口閉ざす
フレームの花の生涯外は雨
コイン占ひ裏は表へ寒明忌


近江文代
山眠る結束バンドに柔軟性
他人めく妻の片顔焚火濃し
手袋の右と左に持つロープ
温室の花の高さで物を言う
鴨南蛮セーターの袖長くあり
真空の餅真空のままでいる
首長く吊られて鴨よ華人街