大井恒行空さびし青またさびし初つばめ
よみがえる一枝もなき桜かな
まぬかれぬ死はあり泰山木の花
田中葉月夜桜や小さき拍動生まれ来る
遠足のメザシぞくぞくやつて来る
メデゥーサの深き哀しみ木の芽立つ
乳暈のゆつくりひらく春の水
桜湯や元気でゐますお母さん
嫁ぐ日の大和ことばや花の雨
少年にもうもどれない蝌蚪の紐
椿屋実梛朝のままカップに残る桜湯よ
花客去ぬ日の暮れ方の匂ひをり
夜桜の薄紅の灯に街染まる
花かがり白川の水鏡なす
眠れない夜を見下ろせば花並木
冷めてゐる夜の珈琲啄木忌
伝説の空のさざめく雁風呂よ
松下カロ封筒にのり代 埠頭に春の雪
少年の腕へさくらは散りたがる
男死に女は尼に春の雪