木村オサム
夏帽を振りて夏帽呼びにけり
日盛りやブロンズ像の乳の張り
子どもより木登り巧し夏休み
次の世へ生まれそこねて海月浮く
夏痩せの男全員島流し
のどか
アスファルトに燃え尽きてゆく終の蟬
懐妊の土偶色づきそむる桃
色つきの夢消えかけて西瓜食む
歳月の翡翠色なる羽化の蟬
反骨の捩れ重ねてたうがらし
真矢ひろみ
夜濯ぐアラフォー単孤無頼たる
白玉の歪み好きなる不惑かな
逃げきって間のおきどころ夕端居
尿の切れ良くて深山に象がゐる
夏帽は深し繊毛縛しけり
前北かおる(夏潮)
似合ふ気がしてきて髪にプルメリア
日盛や首長竜が椰子になり
踊唄ひくし瓢を打ち鳴らす
祝詞あげフラ奉る合歓の花
花合歓や夜空の下のレストラン
ジャグジーにホームシックの夜の秋
虹の島傘をひらけば雨あがり
堀本 吟
友来たりその友も来て汗まみれ
有刺鉄線灼ける理想の一捻り
冷麦や君たち品を培えよ
下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
箱庭に水の音憑く夕かな
本の中に栞の痕や夏館
あふられて白し日傘もその人も
岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
かき氷運ぶ両手や指立てて
炎天の雀と跳ねて清め水
夏蝶や人形供養ふぐ供養
依光正樹 (「クンツァイト」主宰)
売本の見本を置きし日除かな
日覆や窓に緑の湧くごとく
寺町を行きては戻り日傘かな
大ぶりにしてあをあをと汗拭
依光陽子(「クンツァイト」)
白百合の老女はしやいでゐて眠る
むかしから住んで木の枝払ひけり
唖蟬も鳥声を聴きゐたりしか
作り雨降り始めてふ音のまま
渕上信子
歯ブラシ銜へ薔薇ボンジュール
ドレスアップのアッパッパめく
蚊を打たせれば空振ばかり
恩師を憶ふ尾花のうなぎ
鬼灯のはな白くあたらし
星開く夜の蟬のあふむけ
敗戦忌とは我が解放日
青木百舌鳥(夏潮)
夏木立右へ左へフリスビー
軽鴨の潜りては背に水わたす
三ツ編が似合ひほほづき市の婆
すくひたる手鉢の金魚かたよれり
早瀬恵子
体内の水の八月痺れおり
武骨なる江戸前金魚のべべ着たり
ややごとにレース模様の乳房の間(ま)
己様の滝のステージ昇り竜
坂間恒子
産廃の天辺で啼く夏の雉子
夏の月白樺の幹手首ほど
柿田川デュシャンの便器投げ込みぬ
近江文代
ママ歌いたいのソーダ水くるくる
梅雨寒の豚肉縛られて沈む
片方の耳出している初浴衣
ポリープの数を夏蝶来ていると
喜んで両手差し出す夏の川
北川美美
野口五郎岳隠してゐたる雲の峰
苔茂る室生犀星旧居糸雨
片蔭の途切れ山口澄子死す
加藤知子(「We」「豈」「連衆」)
金魚また死ぬ時計逆まわり
上下する死刑執行日の花火
しばらくは腰のあたりの百合花粉
夏木久
空蝉のやうなその影灯を点し
ホームラン叫ぶラジオや敗戦忌
確執の晩夏輪護謨で束ね放置
土砂降りを営業中です酒屋「虹」
八月や昭和の電話鳴り止まず
にくづきの悪き月齢の臓器移植
黒板の余白へ永久に灰の降る
飯田冬眞
豆腐屋の三和土( たたき )がらんと夏の雲
トマト熟る転勤族の黒き目に
残り香の微かな痛み遠き雷
六道の辻にたたずむ毛虫かな
念力の少年スプーン曲げし夏
ひたひたとデンデラ野より夜盗虫
水を汲む骨を抜かれし浴衣着て
田中葉月
夏の山二十歳のバス停塗りかへる
洪水やいまだ造花の咲きしまま
病葉にのこるくれなゐくるりくら
青柿や雲に聞いたか聞こへたか
生きてゐるただそれだけの螢
渡邊美保
明易の蟇掛け軸に戻りたる
かたつむり琵琶湖一周してきたる
黙々と塩振る男南風
西瓜食ぶ幽霊の役引き受けて