2018年9月21日金曜日

平成三十年 夏興帖 第六(下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・渕上信子)



下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
箱庭に水の音憑く夕かな
本の中に栞の痕や夏館
あふられて白し日傘もその人も


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
かき氷運ぶ両手や指立てて
炎天の雀と跳ねて清め水
夏蝶や人形供養ふぐ供養


依光正樹 (「クンツァイト」主宰)
売本の見本を置きし日除かな
日覆や窓に緑の湧くごとく
寺町を行きては戻り日傘かな
大ぶりにしてあをあをと汗拭


依光陽子(「クンツァイト」)
白百合の老女はしやいでゐて眠る
むかしから住んで木の枝払ひけり
唖蟬も鳥声を聴きゐたりしか
作り雨降り始めてふ音のまま


渕上信子
歯ブラシ銜へ薔薇ボンジュール
ドレスアップのアッパッパめく
蚊を打たせれば空振ばかり
恩師を憶ふ尾花のうなぎ
鬼灯のはな白くあたらし
星開く夜の蟬のあふむけ
敗戦忌とは我が解放日