2018年10月12日金曜日

平成三十年 夏興帖 第九(中村猛虎・仲寒蟬・ふけとしこ・水岩瞳・花尻万博)



中村猛虎
子宮摘出かざぐるまは回らない
星涼し臓器は左右非対称
ビックバン宇宙が紫陽花だった頃
初盆や萬年筆の重くなる
早逝の残像として熱帯魚
亡き人の香水廃番となりぬ
古団扇定年の日のふぐり垂れ


仲寒蟬
立てばすぐ谷底見えて簟
えごの花体育館に風通す
払つても払つてもまた火取虫
一本の滝白雲をつらぬきぬ
滴りに押され滴り落ちにけり
不審車に不審者が乗る日の盛
柘榴咲く多産の村の洗濯場


ふけとしこ
飛石へ足置くときを糸とんぼ
水亭に人影白きさるすべり
夏の月くさかんむりを戦がせて


水岩瞳
八月や残したものは絵一枚
風死せり絵筆の声を今に聴く
涼風のオール沖縄のこころかな
ただ灼けて有刺鉄線続きをり
忘れたらかはいさうやさ夏の丘


花尻万博
木の国やどの青蔦も町を出て
さよならの縁(えにし)集まる茂かな
すすり泣くくちなはとして頂きぬ
一等星届かぬ距離の海月なり
街眩し少女らは立葵ほど
青簾水消ゆるまで揺れるかな