2018年12月7日金曜日

平成三十年 秋興帖 第七(飯田冬眞・望月士郎・中村猛虎・下坂速穂・岬光世)



飯田冬眞
眉寄せて銭の穴みる星月夜
鮭小屋の遠き海鳴り賽を振る
殉教の火を知る島の踊唄
むらさきは放浪の色葛の花
指回すとんぼの首の落つるまで
いつまでも指を折る癖鶏頭花
死ぬときは奥歯噛みしめ富有柿


望月士郎
投函の小鳥の名前をもう一度
忘却の日時計として案山子立つ
萩こぼれ文学館に死後の私語
銀漢や少女回転体となる
爪を切る音して月光のトルソー
秋思四角ときおり月の内接す
林檎剥くしずかに南回帰線


中村猛虎
棺桶の小窓の中の鰯雲
右利きの案山子が圧倒的多数
省略の効き過ぎている秋の水
桃を剥く背中にたくさんの釦
月天心胎児は逆さまに眠る
三合を過ぎて秋思の丸くなる
秋燕やシャッター商店街にTENGA


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
水澄みて亡くしたる鳥数知れず
どの色も揃へし羽の花野かな
舟と舟さ揺らぐ後の更衣


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
大鈴の古び小鈴のまろぶ秋
剃髪のこころや白き曼殊沙華
秋の木を降りて賢き雀かな