飯田冬眞眉寄せて銭の穴みる星月夜
鮭小屋の遠き海鳴り賽を振る
殉教の火を知る島の踊唄
むらさきは放浪の色葛の花
指回すとんぼの首の落つるまで
いつまでも指を折る癖鶏頭花
死ぬときは奥歯噛みしめ富有柿
望月士郎投函の小鳥の名前をもう一度
忘却の日時計として案山子立つ
萩こぼれ文学館に死後の私語
銀漢や少女回転体となる
爪を切る音して月光のトルソー
秋思四角ときおり月の内接す
林檎剥くしずかに南回帰線
中村猛虎棺桶の小窓の中の鰯雲
右利きの案山子が圧倒的多数
省略の効き過ぎている秋の水
桃を剥く背中にたくさんの釦
月天心胎児は逆さまに眠る
三合を過ぎて秋思の丸くなる
秋燕やシャッター商店街にTENGA
下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)水澄みて亡くしたる鳥数知れず
どの色も揃へし羽の花野かな
舟と舟さ揺らぐ後の更衣
岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)大鈴の古び小鈴のまろぶ秋
剃髪のこころや白き曼殊沙華
秋の木を降りて賢き雀かな