杉山久子白髪の美しき遺影や鳥雲に
木漏れ日の記憶匂へる夏帽子
終電に空ける予祝の缶ビール
渕上信子老いうぐひすの物狂めき
蟻にあなたに雨の休日
兜太論茹小豆甘すぎ
被爆ピアノを聴く熱帯夜
夏帽子振向くや別人
夜食のあとの指舐めて「さて!」
歩み出す厄日の団子虫
夏木久炎昼を影の干乾びゆくボレロ
顔役になれず朝顔朝茶漬
峰雲の麓総州九十九里
雨脚が伸びて曼陀羅図の小火へ
器より銀河へしずく水の星
向日葵の所属七三一部隊
王子さま忌の夜の飛行機雲へ
杉山久子白髪の美しき遺影や鳥雲に
渕上信子老いうぐひすの物狂めき
夏木久炎昼を影の干乾びゆくボレロ
神谷 波手が空いて炭酸水とバラの風
曾根 毅裁かれることなく老いぬ白牡丹
松下カロ石ひとつ抱いて帰りぬ昼寝覚
筑紫磐井陽炎の天にちぎれて野に遊べ
依光陽子(「クンツァイト」)八重桜空を見やうとして空は
小沢麻結にじり寄る田螺の先の田螺かな
近江文代火を焚いて男の腕よ春の雪
佐藤りえたなごころ綺麗な菩薩春の雪
西村麒麟眠さうな中学校の桜かな
下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)囀や今はしづかな祟り神
岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)漁りの指を離れぬ春の潮
依光正樹(「クンツァイト」主宰)門の中からしやぼん玉吹いてゐる