2019年8月2日金曜日

令和元年 春興帖 第十一(西村麒麟・下坂速穂・岬光世・依光正樹)



西村麒麟
眠さうな中学校の桜かな
野球部の遠投を見る桜かな
紫のジャージの人が耕すや
先生の忌日に吹かん鶯笛
稀に出す手紙の返事春愁ひ


下坂速穂(「クンツァイト」「秀」)
囀や今はしづかな祟り神
残る子と貰はれてゆく子猫かな
髪長き男が春を寒さうに


岬光世(「クンツァイト」「翡翠」)
漁りの指を離れぬ春の潮
菜の花や浜には浜の屋台来て
かたはらの子は砂を掘り春の沖


依光正樹(「クンツァイト」主宰)
門の中からしやぼん玉吹いてゐる
海風が出て春光が照りつけて
磯遊びビルばかり見し吾にうれし
草餅や潮の香りもどこからか