2019年9月27日金曜日

令和元年 花鳥篇 第六(小沢麻結・井口時男・岸本尚毅・仙田洋子)



小沢麻結
満月の更けて煌々春コート
スパイダークロスステッチ薔薇の午後
パン厚くバナナとラムの黒糖ジャム


井口時男
鬣青く谷間の夏へいつさんに
夏蝶の影が貼りつく甃のうへ
炎帝と酌むガード下の昼酒
黒猫の眉間に発止(ハッシ)!夏星燦
海鞘ふとる海底ひそと動く夜も
水茄子や南鳥島風力3


岸本尚毅
永き日の後のつめたき夜の闇
平成が逝き春が逝くパンを噛む
老鶯や莟大きく百合の供華
郁子若葉梅の支へ木巻きながら
昼顔の花と子供と鋏虫
玉子丼ほろほろ食うて桜桃忌
売つてゐる扇に透けて扇かな


仙田洋子
口つぐむチェルノブイリの春の鳥
絶滅の近し近しと亀鳴けり
ちぎられし英字新聞鳥の巣に
べたべたと躑躅べたべたと妬みゐる
エビアンを飲み葉桜のざわざわと
相撲部の部室風鈴鳴りにけり
ウィンドサーフィン水平線のまだ遙か

2019年9月20日金曜日

令和元年 花鳥篇 第五(林雅樹・渡邉美保・家登みろく)



林雅樹(澤)
高校俳句部交る雀の交るを見て
教室で魔羅出す教師桜散る
泡吹きて痙攣するや花見客
ホルモンの活発に出る躑躅かな
百千鳥厠に足の痺れけり


渡邉美保
川萵苣の花散る水面つばめ来る
幾百の夜を過ごせり蟻地獄
プチトマト仰山育て夏痩せす
月の出を人になるべくスッポンモドキ


家登みろく
新しき靴もて薄暑光の中
一粒に座りよろしきさくらんぼ
遮断機のするりと上がり虹さやか
木の匙を濡らし濡らして氷菓食ふ
極暑かな日出づる国の五輪騒

2019年9月13日金曜日

令和元年 花鳥篇 第四(浅沼 璞・小野裕三・真矢ひろみ)



浅沼 璞
ねむたげなまなこ降りくる花あふち
緑さすポニーテールの輪ゴムかな


小野裕三(海原・豆の木)
春の星集めて飼育するごとし
紫陽花の潔さにて聴くバッハ
向日葵に攻められ音楽室は空っぽ


真矢ひろみ
春の水海となりその夢となる
箱庭の音だけすなる大花火
丹波太郎眉太き嬢よく笑ふ
若衆のあをき美白や晩夏光
鉄線花断ち切るほどの縁なく

2019年9月6日金曜日

令和元年 花鳥篇 第三(小林かんな・早瀬恵子・木村オサム)



小林かんな
夏霧に捺す漢委奴国王
将軍の一字拝領額の花
字の中に草国尸山滴る
夕虹や偏と旁がめぐり合い
金文を器に鋳込み夏の星


早瀬恵子
クリムトのラディカルにくる金の夏
忘れられ油団ゆとんの床のゆかしかり
花形の和事・荒事・令和三伏


木村オサム
全身の鈍痛のごと蟇蛙
黙秘する男の前の金魚鉢
天上の瀬音満ちたる蝉の殻
目撃者ごとに異なる蛇の丈
女太夫の隣の鬼火月見草