2019年12月13日金曜日

令和元年 夏興帖 第六(浅沼 璞・林雅樹・北川美美・青木百舌鳥・岸本尚毅・田中葉月・堀本 吟・花尻万博・井口時男・渡邉美保)



浅沼 璞
ねむたげなまなこ降りくる花あふち
ポットからそゝぐ父の日の無言
階段のぢつと動かぬ更衣
冷房のスカートは腰ほそくなる
日本の目鼻だちして欠き氷


林雅樹(澤)
池に浮く子供の靴や蝉しぐれ
うんこちよつと出ちやつた花火きれいだな
キューピーの波に漂ふ驟雨かな


北川美美
喧嘩するためのトマトを山積みに
血のごとくトマト煮詰めてゐるところ
赤赤とY子弔うトマトかな


青木百舌鳥(夏潮)
きらきらと化繊の綾や明易き
夏山や鍬つかふ音の乾びたる
日曜の会議へ歩く祭町
懐メロにグッピーの舞ふ喫茶室


岸本尚毅
笑ひをる顔の若あゆ新茶汲む
安物の水鉄砲のうすみどり
三才や回つてみせて素つ裸
避暑の人寒しと云うて犬を抱く
空蟬は雌日芝の葉を固く抱く
ラムネ飲む女とラムネ売る男
夏帽子振ればジブリの映画めく


田中葉月
美しき雨つれて来よ道をしへ
眠れないああ眠れない蟇蛙
禁断のくだものを食べはんざきに
ふあの雨音またずれてゐるバルコニー
蝉時雨こんなに軽い本音かな


堀本 吟
季のみだれ
季のみだれ四通八達蟻の旅
ねむの花金魚からまた金魚生れ
けもの道わけいっても雲の峰


花尻万博
問い掛けの途中昼寝始まり
守宮の尾疾走までは夢境
花茣蓙を阿保程敷いて病み直す
羽蟻に強き反芻ありにけり
陸の魚に潮近付けぬ朝は曇り


井口時男
沢水ひかりころがる百の青胡桃
火の文身水の文身都市雷雨
夏の夜をこれ天山の雪の酒
  *「楢山節考」のモデルの村で。三句
夕焼の早桶沢へ七曲り
晩夏晩景矍鑠として山畠
老農に志あり夏逝くも


渡邉美保
水音に誘われて入る木下闇
折紙のピアノ鳴りだす大西日
沼杉の気根膨らむ半夏雨