2019年12月20日金曜日

令和元年 夏興帖 第七(真矢ひろみ・竹岡一郎・前北かおる・小沢麻結・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・水岩瞳)



真矢ひろみ
若衆の手弱女ぶりぬ五月闇
余花対ふ非在の空を如何にせむ
海の日の海のにほひはふゐにたつ
意味問わず意味を嗤ひぬ蟻地獄
空事や空蝉何ぞ華やげる


竹岡一郎
「良いひとなのに」手花火落とし「悪い酒」
蘭鋳を鉢いつぱいに太らせよ
翡翠りをり黒姫の草いきれ
蜂の巣へ掛けし炎や夜を泳ぐ
鉄火の夜南溟巡る玳瑁たいまい
大くらげ澪に紛れてつき来たる
尖る体にビキニ「なに見てんのよ」


前北かおる(夏潮)
お揃ひの光るカチューシャかき氷
熱帯夜フランクフルト焼きまくる
消火器と如雨露と蜘蛛とマンホール


小沢麻結
雨を聴くための庵の実梅かな
錯覚は恋のはじまりソーダ水
シャンデリア涼し講習会眠し


下坂速穂
木に触れて人思ひ出す南風
その先も径あるやうに著莪の花
晴れてたのし降つてうれしき簾かな


岬光世
睨むほかなき目が一つ灸花
凌霄の昏きへ坂を下りつつ
人待ちの脚を見遣りて夏の蝶


依光正樹
碧い風菖蒲の上を流れ出す
絵日傘の絵にこのごろを振り返り
傘内に青鬼灯を廻しけり
人の背に汗の染み出る古い寺


依光陽子
青梅に触れたき指やいまに触れむ
花に来しものを見てゐる日傘かな
涼しさの一篇を読み眼が澄んで
海の夏のインクを流しガラスペン


水岩瞳
初恋の記憶をよぎる金魚かな
黙契を確かめてゐる古扇
滝しぶき今が流れてゆきにけり