山本敏倖草木染め夏の銀河で濯ぎおり
透析の力を借りて濃紫陽花
箱眼鏡たましいの色見つけたり
万緑の遺骨のような乳母車
夜の秋明日には消える舟を編む
神谷 波蝉の殻あつめて忘れ脱ぎ散らかし
館涼しそこのけそこのけ撞木鮫
いやらしいまで張り付いて汗のシャツ
イケメンに髪切つてもらひ青田風
木村オサム真夜も目を開ける令和の羽抜鶏
翼竜の骨の曲線更衣
柩無き金魚のための平方根
仏蘭西語に男女の区別かたつむり
ぐにゃぐにゃの樹をまっすぐに蝉時雨
坂間恒子炎天へ自己確認の手形押す
夕顔は源氏の扇にのっており
薔薇園のはてあり裸婦の横たわる
秋興帖
浅沼 璞ネクタイをゆるめる首の夜長かな
むかれたる種なし葡萄ふるへたる
無理じひの握手よろしく鰯雲
頂上で絶え絶えの鯖雲ありき
両手なら飛べた空かも明治節
林雅樹(澤)秋晴や尿もて崩す砂の城
山の端のアドバルーンや稲を干す
下痢すれば出づる涙や竈馬
北川美美山に霧ワインセラーに石の門
虚子たぶんやはらかからむ秋の空
秋風や犬がよろこぶ牛の骨
ふけとしこ秋天や鳶が掴みそこねし杭
台風が来る枳殻が棘磨く
蛇穴に入る窯番が菓子を割る
頬杖のをとこに松は色変へず
黄昏をくれなゐ帯びて鰯の目
菊の香やもう息をせぬ髭を剃り