2019年12月6日金曜日

令和元年 夏興帖 第五/秋興帖 第五(山本敏倖・神谷 波・木村オサム・坂間恒子・浅沼 璞・林雅樹・北川美美・ふけとしこ)

夏興帖

山本敏倖
草木染め夏の銀河で濯ぎおり
透析の力を借りて濃紫陽花
箱眼鏡たましいの色見つけたり
万緑の遺骨のような乳母車
夜の秋明日には消える舟を編む


神谷 波
蝉の殻あつめて忘れ脱ぎ散らかし
館涼しそこのけそこのけ撞木鮫
いやらしいまで張り付いて汗のシャツ
イケメンに髪切つてもらひ青田風


木村オサム
真夜も目を開ける令和の羽抜鶏
翼竜の骨の曲線更衣
柩無き金魚のための平方根
仏蘭西語に男女の区別かたつむり
ぐにゃぐにゃの樹をまっすぐに蝉時雨


坂間恒子
炎天へ自己確認の手形押す
夕顔は源氏の扇にのっており
薔薇園のはてあり裸婦の横たわる


秋興帖

浅沼 璞
ネクタイをゆるめる首の夜長かな
むかれたる種なし葡萄ふるへたる
無理じひの握手よろしく鰯雲
頂上で絶え絶えの鯖雲ありき
両手なら飛べた空かも明治節


林雅樹(澤)
秋晴や尿もて崩す砂の城
山の端のアドバルーンや稲を干す
下痢すれば出づる涙や竈馬


北川美美
山に霧ワインセラーに石の門
虚子たぶんやはらかからむ秋の空
秋風や犬がよろこぶ牛の骨


ふけとしこ
秋天や鳶が掴みそこねし杭
台風が来る枳殻が棘磨く
蛇穴に入る窯番が菓子を割る
頬杖のをとこに松は色変へず
黄昏をくれなゐ帯びて鰯の目
菊の香やもう息をせぬ髭を剃り