2020年2月7日金曜日

令和元年 冬興帖 第六/令和二年 歳旦帖 第五(木村オサム・ふけとしこ・真矢ひろみ・前北かおる・佐藤りえ・筑紫磐井・飯田冬眞・竹岡一郎・妹尾健太郎・神谷波)


【冬興帖】

木村オサム
全身に刻むハングル冬日向
小春日のロシア民族大移動
モアイ像のまなこの窪み日短
日向ぼこビルマのチェスの仏たち
シベリアの飢餓のざらつき寒卵


ふけとしこ
深草の少将へ散る冬紅葉
三椏の蕾欲しがる雪をんな
妖精の棲みつきさうな木にも雪


真矢ひろみ
餅白く罅深くして冬季鬱
石蕗何ぞ己が照らしに引きこもる
一月や竹の切り口気にかかる
日を掬い虚空に透かす寒の水
野に消えし寒茜いま新宿に


前北かおる
中社前中谷旅館雪を踏む
雪踏に随身門の遥かなる
寒造滝の如くに水注ぎ


佐藤りえ
たゞ冬のお菓子売場に迷子なる
猫の子のやうに子供が泣く師走
地味な花買つてクリスマスを往けり


筑紫磐井
壺の中に雪降る如く酒醸す
サンヨウチュウの化石に火花ありといへり
雪山を爵位のごとく頂けり
辰巳湯に小銭の如き柚子の数
人間ひと永遠とはに争ふ されどクリスマス
いつもどこかで戦場のごと雪が降る
ゼームスは小春のごとく無期懲役


【歳旦帖】

飯田冬眞
去年今年鱗の色の変はりゆく
寒波来る不揃ひの歯をむき出しに
初凪や原子炉の火を飼ひ殺す
湾ひとつほのと明るし寒桜
寒釣や銀貨は魚の口より出


竹岡一郎
稲積むや旅に雨垂とはに聴く
ぽつぺんに漁港の皺の深みけり
書初に「鏖」とは優しい子
白みけり傀儡から抜くたましなる
羽子板の押絵の顔としてあたし
西窓や傀儡こまかく解体す
辻につく手毬いきなり石と化す


妹尾健太郎
貫禄もまあ中くらい年男
 ゲゲゲにおけるバイプレイヤー
初夢に食べられかけていたのかも


真矢ひろみ
御鏡の罅の深きを覗く児よ
ぱたぱたとスマホを閉じぬ御慶かな
御降りの溪一筋となりて消ゆ


木村オサム
葬儀屋に積まれし柩年明ける
元日のしづかな紐を揺らしをり
坊主だけ抜き出してみるお元日
踏切の音はたと止む三日かな
静脈に流れるけむり寝正月


神谷 波
全身を洗ひをへれば除夜の鐘
見て見てといはんばかりの初日かな
富士山に雲のちよつかい五日かな