2021年2月19日金曜日

令和二年 冬興帖 第五/令和三年 歳旦帖 第五(青木百舌鳥・松下カロ・井口時男・堀本 吟・望月士郎・夏木久・小沢麻結・ふけとしこ)

【冬興帖】

青木百舌鳥
立冬の丘を星糞踏みのぼる
一の酉石段濡るるほどに雨
一団の一人一人が熊手買ふ
リサイクルきものショップにマスク買ふ


松下カロ
爪を噛む青い氷柱を見たあとで
小さな氷柱か兵士の襟章は
休演のオペラハウスは大氷柱


井口時男
父あらば白寿霜月初雪草
憂國忌父よ白寿の二等兵
憂國忌父よ白寿の「ハラショ・ラポータ」
いつからの晩年小春日の三日目
鉄骨の森に迷ひて蝶冷ゆる
踊子の手足かじかみ白鳥来
雪の猟犬の肛門大開き


堀本 吟
初雪や雑木林の鴉二羽
白息の嬰児ややはかぐわし乳臭し
熱帯に交尾りて花のごとき臀


望月士郎
夜焚火に燃えてめくれる私小説
やぶこうじ母を忘れた耳飾り
兎抱くとくんとくん純情す
十二月七日、九日みみぶくろ
湯たんぽのたぷんと不審船がくる


【歳旦帖】

夏木久
竜宮へ寄らぬ便とは宝船
コロナ籠の夜色楼臺雪萬家
縄文は何の縄かと初御空


小沢麻結
箱根駅伝仰ぐ眼の捉へしは何
初乗やきら頼もしきボンネット
寒菊の後ろ姿を見るなかれ


青木百舌鳥
粛として疫病のなかの初詣
ターレーを下りし初荷のゆくへかな
初荷来て氷まみれの荷捌所
眩しみていよいよ丸し初雀


ふけとしこ
正月のインコが塩をつつく音
はつはるを岩合さんの猫が跳ぶ
繭玉や下駄の見事に裏返り