2021年2月5日金曜日

令和二年 冬興帖 第三/令和三年 歳旦帖 第三(杉山久子・山本敏倖・竹岡一郎・辻村麻乃・神谷 波・関悦史)

【冬興帖】

杉山久子
宇宙船に地球の翳やクリスマス
日向ぼこ黄泉路に赤き花を摘み
悴みて感染者数確認す


山本敏倖
ふつうというかたちをさがし葱刻む
牧谿のポラロイドそこだけが火事
障子の穴の向こうのボクと目が合う
どう見ても臆病なだけ寒苺
寒鰤の煮汁で永遠を骨組みす


竹岡一郎
くさめして奔放のまま死にたまふ
血涙に生れ広ごりし大火とも
十二月八日マネキンに四肢嵌めてやる
退学す校長室を雪で充たし
凍土溶かしてロゴス照り舌のたうつ
雪の屋上あやとりに人熟れて墜つ
雪女だから小指が透けてるの


辻村麻乃
うつかりと海に来てをり十一月
ゆくりなく足送り出す小春かな
けふ立冬靴下片方見つかりて
マスクして睫毛の長きインド人
冬三日月栗鼠の鼓動に尾の巻かれ
冬天に梯子となりて御神木
聞こえるか森のせせらぎごろすけほう


神谷 波
Tシャツの遺影に話しかけ小春
小春日や涙が真珠になりさうな
小春日の高砂百合はおすましで
ちりとりと箒のダンス小春日和


【歳旦帖】

辻村麻乃
秒針の音無き時計年明くる
歳晩や静かに近づく電気カー
アスファルトしんとしてゐる大晦日
大旦赤子の涎に始まりぬ
台地いま冬三日月の降りなづむ
かむながら武蔵の国の初寝覚
ぽつぺんに妣の吹きたる息少し


神谷 波
寝入りばな夢かうつつか除夜の鐘
元日の小窓残月畏まる
餅花と月とささやかなるお膳
コロナ禍中ガンバレガンバレと初日


関悦史
賀状来て宇宙の如く少し眠る
身の奥のミノタウロスの御慶かな
パノラマ視現象かはた初夢か
家庭なくんば無機物満つる淑気かな
初電話は安楽死恋ふこゑとこゑ
ロールシャッハの染み啼きだして初鴉
広告動画割り込んで来よ初景色