鷲津誠次霙打つ小駅に朽ちし伝言板
ひとり言好きな家計やかいつぶり
冬夕焼転校生はまた転校
仲寒蟬素うどんがきつねに化けて神の留守
逃げられぬ海鼠に舟の影およぶ
モノクロのネガのごとくに冬の水
鯛焼に正面の顔なかりけり
人寄れば大きく崩れ鴨の陣
演歌歌手並みの声量火の用心
榾火のけしきソドムともゴモラとも
井口時男憂國忌蚤の幽霊さまよへり
ニュートンの沈みし海や大海鼠
写実の海に人魚溺れて冬の浪
枯野のゲリラ花束を擲弾す
ほろ酔ひの身を山茶花に抱き取られ
闇は温し光は痛し寒卵
その前夜(いまも前夜か)雪しきる
ふけとしこ人参にピーターラビットの歯形
人参抜く西空も人参のいろ
風が出て人参甘く煮上りて
【歳旦帖】
杉山久子あをあをと長門八景初明り
掃初の箒に猫が手を出しぬ
春待つ詩紙飛行機の片翼に
仲寒蟬初夢の居間から宇宙ステーション
初鏡この老人は誰ならむ
御慶とてライン着信鳴り通し
午後の日の手元におよぶ歌留多取り
沈没の国のごとくに雑煮餅
箱開けてまた箱あやしげな初荷
初日とか初地球とか月面基地
花尻万博鬼棲まぬ山々贄の寒さかな
新しき光より降る五円玉
屠蘇零す目を開けたまま獣らは
暖かく正月を巻く救急車
葉牡丹や美しき芸見えぬころ
釣り竿の向こう鬼らの凧上がる