2022年8月26日金曜日

令和四年 花鳥篇 第五(加藤知子・仲寒蟬・望月士郎・網野月を・渡邉美保)



加藤知子
日本哀歌蓮ひらかねば銃を撃つ
日盛りの弥栄の(きわ)へ手製銃
夜の雷鳴元宰相を輝かす
安全神話を石棺に供す星祭


仲寒蟬
蠅生まる憎まれ叩かるるために
まやかしもあやかしも連れ夜桜へ
南家より北家へ蕨とどけらる
白鷺の捕食者の目に見られけり
掌の上に啓示のごとく蜥蜴の尾
屑金魚などとよばれて元気なり
遠縁は黄河にをると梅雨鯰


望月士郎
たんぽぽのわた吹いている測量士
手紙を書くときおり蛍狩にゆく
父さんの言った言わない胡瓜揉
昼の月仰向けに蟻に運ばれて
噴水にどしゃぶりのきて笑い合う
なつやすみ白紙に水平線一本
少年の脱け殻あまた青葉闇


網野月を
ペトロ祭生まれ変はりの小漁師
日盛の電信柱すでに人
病葉を堕とさぬやうに柾立つ
石竜子の子築地の藁に獅噛みつき
夕顔や今は稔りて古女房
向日葵やハートいつぱい随へて
甘いトマトは嫌いな人です自炊派です


渡邉美保
水底も櫻待ちをり魚群れて
車前草を踏んで手足の老いにけり
薄衣や和泉式部の墓の前

2022年8月19日金曜日

令和四年 花鳥篇 第四(木村オサム・鷲津誠次・神谷波・眞矢ひろみ・浅沼 璞)



木村オサム
血の音の聞こえるからだ花明り
終わらない準備体操花の昼
まあひとりぼっちでいいか藤の夜は
ちょっとした会釈のあとの蛇の衣
完璧な幻聴ですがほととぎす


鷲津誠次
薄暑なり家裁へつづくうねり坂
暮れかかる湖と休日缶ビール
下校児はみな白き腕ひまわり立つ
何もなきふたり暮らしや西日濃し
ソーダ水ふひに相続税の話


神谷波
細波や揺れ合つてゐる小判草
風涼し鳥楽しげに鳴いてゐる
  庭先
選りし木に取り乱し鳴く老鶯
裏庭に紛れ込みたるねむの花


眞矢ひろみ
長茄子の串を誘ふ怖さかな
トランペットの金色鈍し夏の果
天道虫半球の背に空纏め
大西日降りますボタン押す指に
手花火の一閃脇にものの影


浅沼 璞
藤房や読書の汝に匂はざる
まんさくが一本ゆるやかな斜面
木瓜の咲く失礼なこと言ひだしぬ
メーデーの目抜き通りを口あけて
五月五日まな板の鯉目覚めたる
袋角はんなり藁小屋に光る
紫陽花の向うを新たなる野犬

2022年8月12日金曜日

令和四年 花鳥篇 第三(曾根 毅・瀬戸優理子・浜脇不如帰・小野裕三・小林かんな)



曾根 毅
葉脈の薄きひかりを囀れり
光る桃われと齢をともにせし
湖の水底固し花の冷え


瀬戸優理子
合格を決めし拳や春にひらく
巣立鳥指紋の残る子供部屋
泣きすぎの眼が雲雀野に途中下車
アマリリス恋した記憶だけ脳死
花は葉に二度目は事実婚えらぶ


浜脇不如帰
テロメアの増しゆく癌のねぐるしさ
無訓練冷酒キラーT細胞
涼しげにきびすまで真空パック
七重虹ラザロにもキリスト泪
涼やかに地を刺す十字架の柔和
貫く棒じゃなく彩濃しなつやすみ
カルバリの十に畏まるがラムネ


小野裕三
春眠の稀に平行四辺形
設計図通りに咲いて一輪草
豆の花双子似たまま老いゆけり
囀りや離れ離れにショベルカー
傷心に虹と名づける選択肢


小林かんな
初夏を行きつ戻りつ鶏冠の緋
あめんぼと古墳と浮かぶ昼下がり
空海へさかのぼる寺燕子花
鳥たちも天皇陵も茂りのなか
山滴る神杉のそこかしこ