2022年12月9日金曜日

令和四年 夏興帖 第八(渡邉美保・前北かおる・下坂速穂・岬光世)



渡邉美保
炎天の眉ととのへてゐる少年
蘭鋳の痣うつくしく向きを変へ
ガガンボのわが白髪に紛れをり


前北かおる(夏潮)
星条旗蟬の脱殻つけてあり
かをること忘れて薔薇炎天下
噴水をバスが一周してゆきぬ


下坂速穂
一礼の涼しき人が指南役
十年は長し短し更衣
地下街に騒と閑ある熱帯夜
過去世を掌の忘れざる冷し酒


岬光世
青薔薇の蕊を閉ざして咲きにける
白日傘思ひのたがふ人と居て
宝石の名の湖や籐寝椅子