2023年2月3日金曜日

令和四年 秋興帖 第四(岸本尚毅・神谷波・山本敏倖・ふけとしこ・小林かんな・小沢麻結)



岸本尚毅
盆過やぽんぽんと咲く秋の花
稲の花まみれの稲の匂ひかな
初あらし弁才天に蛇もつれ
広々として点々と桔梗かな
秋晴のただ明るくて駐車場
わが枝豆一つぶ飛んで失せにけり
秋の風雲はうごかず蝶とんで


神谷波
砂浜に珊瑚貝殻白い秋
いつか消える足跡秋の浜昼顔
 田中一村画
画布に閉じ込め鶏頭の充実
柚子百余顆採りて搾れば寒さ急
  

山本敏倖
丑三つの露地深くするきりぎりす
わたくしを編み込んでいる文化の日
音のない軍靴を連れて鰯雲
またしてもうしろの秋の蝶逃がす
鯖雲の色は即物的である


ふけとしこ
細やかな雨よ芙蓉の花が透け
萩は実に手摺の錆が袖口に
こんな日はきつと檀の実の爆ぜる
砧槌罅の中まで日のとどき
金色に蛹の透けて暮の秋


小林かんな
木を植えて木の実が落ちるここは駅
すすき葦いずれも屋根に戴く草
柿生って村人はみな芝居の座
道行へ口笛のとぶ鵙日和
ゆらり風秋蚕の夢でなら会える


小沢麻結
明日語る夜長カクテルはドリーム
タップする指先遠く星流れ
秋晴やビラ絶妙にちんどん屋