曾根毅蟋蟀の黒さ土葬の深さかな
匂い無き山頂に立ち月赤し
天の川それはきれいな耳の穴
木村オサム回想の血はよく巡る曼珠沙華
曲り屋にオルガン並ぶ星月夜
郷土誌のぶ厚く積まれ馬肥ゆる
ひらがなのことばとびかふすすきはら
鼻唄のごとき本能虫の闇
瀬戸優理子黒髪に戻して父と会う新涼
愛されて少女の勝ち気鳳仙花
魂送るまでの思い出話かな
星流る個人情報ひとつ消し
限界集落目玉患う鬼やんま
望月士郎霧の駅ひとりのみんな降りて霧
一日の皮膚うすくして桃を剝く
そらいろの空箱かさねゆく秋思
流星や詩片がすっと指を切る
八頭たぶん鬼太郎の味方
からだからだれか逃げゆく月の道
月そっと心療内科をひらきます
仲寒蟬秋立つやペンに注ぎ足す青インク
ひぐらしの深さを国の深さとも
盆燈籠あの世も混んできましたと
早稲の田や四方へ駆けゆく下校の子
月へ行く人へと出来たての団子
なぜこれが受賞するのか美術展