2023年2月10日金曜日

令和四年 秋興帖 第五(曾根毅・木村オサム・瀬戸優理子・望月士郎・仲寒蟬)



曾根毅
蟋蟀の黒さ土葬の深さかな
匂い無き山頂に立ち月赤し
天の川それはきれいな耳の穴


木村オサム
回想の血はよく巡る曼珠沙華
曲り屋にオルガン並ぶ星月夜
郷土誌のぶ厚く積まれ馬肥ゆる
ひらがなのことばとびかふすすきはら
鼻唄のごとき本能虫の闇


瀬戸優理子
黒髪に戻して父と会う新涼
愛されて少女の勝ち気鳳仙花
魂送るまでの思い出話かな
星流る個人情報ひとつ消し
限界集落目玉患う鬼やんま


望月士郎
霧の駅ひとりのみんな降りて霧
一日の皮膚うすくして桃を剝く
そらいろの空箱かさねゆく秋思
流星や詩片がすっと指を切る
八頭たぶん鬼太郎の味方
からだからだれか逃げゆく月の道
月そっと心療内科をひらきます


仲寒蟬
秋立つやペンに注ぎ足す青インク
ひぐらしの深さを国の深さとも
盆燈籠あの世も混んできましたと
早稲の田や四方へ駆けゆく下校の子
月へ行く人へと出来たての団子
なぜこれが受賞するのか美術展