依光正樹盆梅や打ち残しある寺畑
春風や運河に映る窓明り
崖怖し花の舞ひ散るただ中も
マスク取つて祈りはじめし暮春かな
依光陽子翅を得て象が胡蝶となることの
東風吹くや人の壊れてゆくときも
亡失の春や写真の端が反り
三月の終はりを赤く枯れゆくか
前北かおる(夏潮)埋立の如くにひらけ麦青む
眩しさに慣れていよいよ麦青く
菜の花の広がるところ斎宮址
【花鳥篇】
堀本吟鹿の子や楠の走り根地にもぐり
すれ違う眼でものいうて蛍狩
峠越え眼窩に風の涼しかり
眞矢ひろみ酢で〆よ戦争好きも木耳も
首傾げ雉歩み去る銀河系
美男美童みな攫はるる花辛夷
死は後に迫りくるもの白牡丹
冥婚の列しんがりの道をしえ
下坂速穂もの思ふさまに鳥ゐる緑雨かな
緑蔭のおほきな球は小鳥塚
合歓の花夕暮の雨ほのめかす
花錆びて香を鎮めたる極暑かな
岬光世白き斑の風切羽に春生れて
残る鴨もぐりて音を立て一羽
雪柳一枝の力尽くしゐて