【歳旦帖】
眞矢ひろみ読初やちょい寝の夢に初音ミク
恋歌留多笑う小町のアニメ顔
五臓六腑の生命ゆらぎぬ七草粥
望月士郎着ぐるみを新しくしてお正月
一月のお面は一番上の棚
初日記いきなりピカソふとムンク
大根炊くにんげんという無期懲役
酢海鼠は「すまない」に似てる
曾根毅追い越して鳥から明るくなる鳥へ
夕餉まで悠々と寝ている小雨
褐色の馬沈みゆく巨大太陽
【春興帖】
辻村麻乃のつぽりと富士の頭や春の空
おにぎりを小さく握り春に入る
花曇ビルの谷間にビルの街
手から手へゆつくり渡す染め卵
第三紀の海触洞穴抜けて春
ポケットに父と繋ぐ手あたたかし
手首より呪咀のごとくや春光
豊里友行鮮やかな桜色の看護士さん
もくもくと捥ぐ点滴の大西日
術中の我よ宇宙オペラごらん
目醒めがちな我を見守る鮫の陣
さくらさくらさくらさくら麻酔覚め
術後ベッドの震源心音の闇
桜咲く此処から源氏物語
川崎果連立ちんぼの職務質問おぼろかな
囀や名通訳の二枚舌
重力は時空の歪み半仙戯
蛤やカスタネットは歌わない
さそわれる徹夜の工事シネラリア
投票という立ちくらみ飛花落花
ぼくたちがどう生きようと山笑う
仲寒蟬春雷や武者震ひするトラクター
春の夢放送禁止すれすれの
春宵や猫の時間と人の時間
野火走る鳥より獣より迅く
火炎瓶にもなる椿一輪挿し
傘といふ野暮置いて出る花の雨
蜜蜂や全長見ゆる野辺送り
仙田洋子一周忌
この先に恋もうあらず夜の梅
箱を出し雛ぼんやりしてゐたる
人の世をあきらめ顔の雛かな
ひとつこぼれぱらぱらこぼれ雛あられ
星のみなつめたき彼岸桜かな
色濃きは恋情の濃き桜かな
しわがれし声で応へぬ桜守