山本敏倖滅びなる予言のかたち元旦の地震
鏡餅ずらし平和を呼び寄せる
液化するピアノのような初日かな
初夢を覚めても醒めても夢の中
岸本尚毅近づくや花びら餅へ鼻と口
水仙がおもちやの如し避寒宿
伊勢みちや冬田の雀みな空に
ひしやげたる箱を苛み寒鴉
スズメ鳩ヒヨドリ枯木おじいさん
もの問ふが如き木の影春近し
笹鳴やうす濁りしてあら煮の眼
浜脇不如帰冬耕の痕が微かに将棋盤
泰然と構えてしまえこたつねこ
富士額てかげん無用雪礫
きりすとが電気はしらす鶴の骨
冷やかしてげふっと冴えるウィルキンソン
十字架の苦すら本鮪の造
緩急をツケて湯気立つ卅日蕎麦
冨岡和秀旅涯てに地獄めぐりや恐山
斜陽館文士の声が滲み出す
【秋興帖】
下坂速穂或る町の消えて道ある秋彼岸
厨房の二人に狭し小鳥来る
隙のなき色となりたる唐辛子
水澄みて校歌はいつも山や川
岬光世新秋や波除願ふ水の音
秋桜ををしき海の鳴り止まず
蔵町を舟と流れて後の月
依光正樹石ごとに丸みのちがふ水の秋
携帯のなきころの吾秋が澄み
秋の野や桜でんぶの弁当も
町に入りて秋の気配の遠くなり
依光陽子るりしじみ秋へ秋へと誘ふは
波音のする人美術展覧会
眼の玉に水陰うつす蜻蛉かな
空を来て花野に遊びゐたる人