2024年10月11日金曜日

令和六年 夏興帖 第一(小野裕三・曾根毅・大井恒行・仙田洋子・辻村麻乃)



小野裕三
白靴の昔の形なりにけり
夏の瀬を偽者となり歩くかな
虎の字を名に含ませて夏木立
兄弟子が最後に残る滝見かな
鏡よ鏡昼顔のある生活
親友になれるなれないハンモック
フランスのありとあらゆる夏の旗


曾根毅
欄干に男の集う海月かな
身支度に紛れ込みたる夕蛍
青葉山父の腋から溢れ出し


大井恒行
青芒傷つき抱く昼下がり
火炎なか闇笛草笛祭笛
ひとすじの神に吊られる夏の兵


仙田洋子
夏草やドーベルマンの貌ぬつと
産声に万緑の山目覚めけり
蒼穹に太き虹あり重信忌
言の葉のしづかやはらか月涼し
ひとりには大きすぎたる緑蔭に
ほどほどに離れて鷭と大鷭と
老いながら青蘆原に紛れゆく


辻村麻乃
あめんぼの求婚波を掴みたる
選択の光受けたる蓮の花
いづれかが落つる定めよ柿の花
卯の花腐し他人のやうな一人つ子
病とは白き野にあるハンモック
振り向きて鶴の貌なり半夏雨
合歓の花閉ぢて光を仕舞ひけり