2024年10月18日金曜日

令和六年 夏興帖 第二(神谷波・瀬戸優理子・岸本尚毅・鷲津誠二・坂間恒子)



神谷波
水無月の雨音こきみよき軒端
夕立の後鉾杉の誇らしげ
老夫婦だけとなりたる百日紅
打打発止太陽と熊蝉と
散髪をしてきたばかりらし日傘


瀬戸優理子
チョコミントアイス止まらぬ温暖化
カッペリーニ待つ夏蝶を見失う
昼寝覚プリンはちょうどよい固さ


岸本尚毅
満面に口ある鯉や青あらし
茅の輪くぐる人を水鉄砲で撃つ
這ふもゐる夏蚕の匂ひほのぼのと
味噌汁に海老の頭や雲の峰
罰杯を高くさしあげビアホール
冷房や札に銭のる募金箱
日盛や役所掲ぐる日章旗


鷲津誠二
夕立やいよゝ凛々しき開墾碑
不登校の家にすくつと大向日葵
片ゑくぼ亡き母に似て藍浴衣
うたた寝の駄菓子屋の婆蚊遣り香


坂間恒子
白昼の鶏鳴あがる栗の花
かすかなる馬の嘶き忍冬
黒揚羽一頭ひそむ水琴窟
どこまでも鉄路のひかり夕蜩
ゴ-ギャンの裸足の娘と目が合った

2024年10月11日金曜日

令和六年 夏興帖 第一(小野裕三・曾根毅・大井恒行・仙田洋子・辻村麻乃)



小野裕三
白靴の昔の形なりにけり
夏の瀬を偽者となり歩くかな
虎の字を名に含ませて夏木立
兄弟子が最後に残る滝見かな
鏡よ鏡昼顔のある生活
親友になれるなれないハンモック
フランスのありとあらゆる夏の旗


曾根毅
欄干に男の集う海月かな
身支度に紛れ込みたる夕蛍
青葉山父の腋から溢れ出し


大井恒行
青芒傷つき抱く昼下がり
火炎なか闇笛草笛祭笛
ひとすじの神に吊られる夏の兵


仙田洋子
夏草やドーベルマンの貌ぬつと
産声に万緑の山目覚めけり
蒼穹に太き虹あり重信忌
言の葉のしづかやはらか月涼し
ひとりには大きすぎたる緑蔭に
ほどほどに離れて鷭と大鷭と
老いながら青蘆原に紛れゆく


辻村麻乃
あめんぼの求婚波を掴みたる
選択の光受けたる蓮の花
いづれかが落つる定めよ柿の花
卯の花腐し他人のやうな一人つ子
病とは白き野にあるハンモック
振り向きて鶴の貌なり半夏雨
合歓の花閉ぢて光を仕舞ひけり