木村オサム迷宮をあっさり抜ける羽抜鶏
内側はサンバのリズムかたつむり
ががんぼが来るが昨夜の壁がない
空蝉が樹の出奔を留めをり
顔上げて天牛の噛む雨雫
中西夕紀じゅくじゅくと葎すずめの不満らし
雨太き浮世絵に入る涼みかな
水飛ばし帆を洗ひをる裸かな
そこそこに友人もゐて泥鰌鍋
【秋興帖】
辻村麻乃息苦しきほどの雲よ秋の雷
失くしたと思うて出会ふ明けの月
長き夜に長き手紙を書きにけり
揺蕩うて淡くなりたる恋螢
笑ひ声溢るる校舎稲の花
彼岸花左岸に土砂のどつさりと
きつちりと壁に沿うたる秋日射
神谷波秋暑し石割れ石の溜息が
包丁を研いで新米炊きあがる
ひよつこりと厨の窓に小望月
名月に見守られつつ眠りけり
瀬戸優理子ほどほどがわからないまま花野風
ピアノ曲転調のたび水澄みて
育休産休林檎の蜜の満ちるまで