2024年11月1日金曜日

令和六年 夏興帖 第四/秋興帖 第二(木村オサム・中西夕紀・辻村麻乃・神谷波・瀬戸優理子)

【夏興帖】

木村オサム
迷宮をあっさり抜ける羽抜鶏
内側はサンバのリズムかたつむり
ががんぼが来るが昨夜の壁がない
空蝉が樹の出奔を留めをり
顔上げて天牛の噛む雨雫


中西夕紀
じゅくじゅくと葎すずめの不満らし
雨太き浮世絵に入る涼みかな
水飛ばし帆を洗ひをる裸かな
そこそこに友人もゐて泥鰌鍋


【秋興帖】

辻村麻乃
息苦しきほどの雲よ秋の雷
失くしたと思うて出会ふ明けの月
長き夜に長き手紙を書きにけり
揺蕩うて淡くなりたる恋螢
笑ひ声溢るる校舎稲の花
彼岸花左岸に土砂のどつさりと
きつちりと壁に沿うたる秋日射


神谷波
秋暑し石割れ石の溜息が
包丁を研いで新米炊きあがる
ひよつこりと厨の窓に小望月
名月に見守られつつ眠りけり


瀬戸優理子
ほどほどがわからないまま花野風
ピアノ曲転調のたび水澄みて
育休産休林檎の蜜の満ちるまで