2024年11月15日金曜日

令和六年 秋興帖 第三(岸本尚毅・坂間恒子・ふけとしこ・仲寒蟬)



岸本尚毅
扇風機の風ゆるやかに秋の蠅
ミヒャエルといふ老人や花煙草
表札の無くて人住む穴惑
この町にプロレスが来る草の花
居る蠅のただぼんやりと糸瓜かな
壁白く人の影あり美術展
手の甲を嗅がせて奈良の鹿いとし


坂間恒子
実むらさき声だすものに群鶏図
月光に呼ばれたものから折れる
デユーラーの視線の先の曼珠沙華
心象の岸辺の馬に秋がくる
シャガールの驢馬の声する秋の虹


ふけとしこ
こほろぎや函を出渋る昭和の書
秋の日を針出して死ぬ蜂ありて
月を見て木星を見て雲を見て


仲寒蟬
八百長の疑惑も愉し西瓜割り
秋の蚊といふといへども痒きこと
身上は揺るることなり酔芙蓉
懐柔は無理いきりたつ蟷螂に
蚯蚓鳴く兵馬俑にも聞こゆらむ
人よりも案山子が多いではないか
耳打をされて角力の本番へ