岸本尚毅扇風機の風ゆるやかに秋の蠅
ミヒャエルといふ老人や花煙草
表札の無くて人住む穴惑
この町にプロレスが来る草の花
居る蠅のただぼんやりと糸瓜かな
壁白く人の影あり美術展
手の甲を嗅がせて奈良の鹿いとし
坂間恒子実むらさき声だすものに群鶏図
月光に呼ばれたものから折れる
デユーラーの視線の先の曼珠沙華
心象の岸辺の馬に秋がくる
シャガールの驢馬の声する秋の虹
ふけとしここほろぎや函を出渋る昭和の書
秋の日を針出して死ぬ蜂ありて
月を見て木星を見て雲を見て
仲寒蟬八百長の疑惑も愉し西瓜割り
秋の蚊といふといへども痒きこと
身上は揺るることなり酔芙蓉
懐柔は無理いきりたつ蟷螂に
蚯蚓鳴く兵馬俑にも聞こゆらむ
人よりも案山子が多いではないか
耳打をされて角力の本番へ