2024年12月13日金曜日

令和六年 夏興帖 第五/秋興帖 第四(山本敏倖・冨岡和秀・花尻万博・望月士郎・青木百舌鳥・加藤知子・豊里友行・木村オサム・中西夕紀)

【夏興帖】

山本敏倖
六月ははや吊るし人形である
夏座敷居留守の音の尻尾出る
入念に余白を隠す女郎蜘蛛
古事記からくちなわの音盗みおり
中世の木霊を連れし麦の秋


冨岡和秀
弔いの鐘が鳴るなり疫病期
滑空のスキー転んで鳥探し
捉われて身口意(しんくい)放つ手術台


花尻万博
蛇一つ泳がす雲のみだれかな
木苺や熊野kumanoとツーリスト
お花畑ここ城跡と言はれても
Coca-Cola気にはしている道をしへ
100%ブーゲンビレア西日かな
長々と出口を探す木下闇
都合よくクロアゲハさへ味方して


望月士郎
言葉はぐれて夕べ蛍という鎖線
夜店の灯真っ赤なものを舐めている
包帯を濡らさぬように金魚掬う
等分にメロン切るときやや船長
聞き返す二度目は少しかたつむり
蜘蛛の巣の張られて空が神経質
星涼し脊柱そっと管楽器


青木百舌鳥(夏潮)
老鶯が四五羽それぞれ癖もありて
鶏糞が匂ひ夏葱畑かな
銭蔵に千両箱は無く涼し
高原やトマト棄てつつ販ぎつつ


加藤知子
崖墜ちし汝れ美しとふ梅雨の蝶
今年竹の切り口に憑く金剛鈴
滝の上の水落つ捨身飼虎のごと
揚羽蝶守護霊のごとひらひらす
死者の家蜥蜴が走る朝帰り


【秋興帖】

豊里友行
鰯雲あふれる愛の言霊よ
稲光レベルの属国コンセント
銀河系の回廊なり螽斯
いのちをもやしている戦火のまなこ
でで虫の敬老会の父と母
ブルーシートのあと桃太郎の誕生
原爆と戦争展の鰯雲


木村オサム
シャンプーの香りの美僧秋の昼
波平の一本を抜く龍田姫
あきらかに人間寄りな桃潰す
簡単に口割るスパイ猫じゃらし
凶作の地から古本掘り出さむ


中西夕紀
海を背に昔酒場の蔦紅葉
とんばうや海につながり湖暗し
秋燕やバスの待ちゐる外国船
あけび持つ小山君てふ迷子かな
赤い羽根つけて木陰に待つ演者