眞矢ひろみ野佛の微笑み深し蛇苺
青鬼灯女系家族の一男子
薬玉やかすかな風に犀を嗅ぐ
渡邉美保ふうと息吐いて鉄砲百合ひらく
血豆浮く腐草螢となる夕べ
炎昼のベンチにバスを待つ黒衣
村山恭子大屋根に水の刻印あやめぐさ
スカイブルーのインク封蝋は薔薇
桑の実をつぶす指さき自我の香よ
川崎果連国境の膠の溶ける油照
山の蛇うちへ誘うがついて来ぬ
スカートの中へかくまう青大将
前例の始まりはいつ土用波
死んでから無罪とわかる金魚たち
つぶれてもトマトはトマト思想犯
片蔭に入っては出て鳩飛ばず
前北かおる漂流す麦藁帽の画描のせ
日に焼けて漂流船に仁王立ち
絶海に炎帝とこの難破船
【秋興帖】
山本敏倖砂絵を濡らす月光のカタルシス
蜻蛉来て国旗の赤に染まりけり
にんげんに向かう舟あり十三夜
分身は野菊に倣い馬に乗る
江戸前の新蕎麦すする紀尾井町
青木百舌鳥(夏潮)古家や残る暑さを拭掃除
野分逸れけりからり空缶を捨つ
コスモスの揺れつつ伸びてゐる感じ
新米の籾をざらりと見せくれし
冨岡和秀うるわしの背の刺青や雪女
解放の神学となるAとV
大三輪の緑を息する偏執・分裂
メランコリーの裂け目から沸く傑作集
花尻万博赤々と漁婦羽ばたく台風圏
コスモスを一直線に巡礼よ
おつとりと鬼灯つひに恋をする
明日あると思ふ和歌山唐辛子
曼珠沙華散りゆく普通の花として
芒原詰めの甘さを残したる
表現の終はり台風賑やかに