2024年12月27日金曜日

令和六年 夏興帖 第七/秋興帖 第六(中嶋憲武・早瀬恵子・小林かんな・眞矢ひろみ・渡邉美保・村山恭子・松下カロ)

【夏興帖】

中嶋憲武
昏い火を置く白馬となれぬ夏の霧
蟻ひとつ潰し近代戻り来る
電話の向うに雹の昼の飛来
ローマは夜蝋燭しろく海月の密
海草の夜を貸しボート哀しむ北部
玻璃戸夜の呼吸閉め梅雨の星数へず
馬が立つ仕種の芒種倦む儀式


早瀬恵子
ヴィオロンのニンフの風や瑠璃の羽
茉莉花や彫刻美男のジャムセッション
バリ~ハイ~サザンクロスや王の道


小林かんな
梅雨の月グリコの下に少女たち
地下鉄の入口二つ蝉の声
電磁調理器勧める人へ出す麦茶
夜濯ぎや老人ひとり分の脂
踏まれたりサーターアンダギーと蟻


【秋興帖】

眞矢ひろみ
終バスに終わりありけり星月夜
また一人をんな死にゆく西鶴忌
老鞣すつるべ落としの山河かな


渡邉美保
捨て舟に鴉来てゐる残暑かな
大太鼓小太鼓干され九月来る
秋の風父似の硬き爪を切る


村山恭子
南門の礎白し荻のこゑ
子蝮の秋思よ半呑みの蛙
親さがし露の木の実をさがす熊


松下カロ
秋刀魚の頭ふたつ食べ愚かなまま
人形の目のあをあをと鳥渡る
流木は月の軍馬となりにけり