2014年11月21日金曜日

 平成二十六年秋興帖,第六 (もてきまり・西村麒麟・飯田冬真・月野ぽぽな・筑紫磐井・岡田由季・音羽紅子・後藤貴子・竹岡一郎・仲寒蟬・福永法弘・山田露結・大井恒行・北川美美・仮屋賢一)



もてき まり (「らん」同人)
男郎花とりとめもなく死の匂ひ
慾ふかくどぶろく青の味したり 
曼珠沙華あれは原発4号機 


西村麒麟
泳ぎゐる一塊のしめぢかな
声がしてはつとしめぢを見たりけり
しめぢ又たぷんと浮かび来たりけり
沈めたるしめぢのことを思ひ出す
しめぢのみ偏愛したる病あり



飯田冬真
蟷螂や尖るものから喰はれゆく
いびつなる影を引き摺り後の月
糸瓜忌やエプロンの紐生乾き


月野ぽぽな(「海程」同人)
竜淵に潜むや空に傷のこし
かまきりは草のおもさの鎌をふる     
咲き満ちて莟のごとし吾亦紅    
たましいのかすかな羽音水の秋
よく熟れた星から順に流れるよ


筑紫磐井
暑が処むといへる酒場の止まり木に
田はみんな刈らねばならずみんなで刈る
深大寺人多ければ秋さみし



岡田由季(炎環・豆の木)
洋梨の部屋に夜風を入れてをり
竈馬危ふく弟子になるところ
弦楽の分厚き音を出す良夜


音羽紅子
この町の中華食堂銀杏散る
木枯らしや食堂の戸の自動なる
水注ぐ小さきコップや日短か


後藤 貴子(『鬣TATEGAMI』)
紅葉鮒汝がはらわたは土塊ぞ
張愛玲振りさけ見れば芙蓉落つ
寄らば斬るシオカラトンボの鉄拳ぞ

竹岡一郎(「鷹」同人)
世に満つる恐怖を忘れ障子貼る
戦争を越え来し家の障子貼る
障子貼る優しき家となるやうに


仲寒蟬
陰毛のごとくちぢれて曼珠沙華
胆石は胆嚢の底秋の水
辞書割つてその谷を月渡らしむ
花野へとつらなる書庫の起伏かな
秋の夜の睫毛がワイングラス越し
秋麗の木の影木より濃かりけり
虫の闇たどればホテルカリフォルニア



福永法弘(「天為」同人、「石童庵」庵主、むかし「豈」同人、俳人協会理事)
盆荒れに切れ切れワルシャワ労働歌
薄もみぢ俳句この頃女歌
軍歌より露けきものに反戦歌



山田露結(「銀化」同人)
二つ三つ四つ目までは柘榴でした
露けしや資生堂アイスクリームパーラーのフルーツポンチ
冬近しフィリピン・パブから次のフィリピン・パブが見ゆ



大井恒行
舌読す句碑のみならず秋の昼
天日をまさびし鳥の鳴きわたる
桐一葉落ちればみょうに明るい木



北川美美
どの菊も食べられる菊食べてみる
月蝕を探して歩く近所かな
夜半の秋時計が半を打つたびに




仮屋賢一(「ふらここ」)
少女らの敵無き天下七五三
選びゐる次の名盤風邪心地
贖罪のまづは蜜柑を剥いてから
冬の虹ならば掴んでみせたまへ