2014年11月14日金曜日

平成二十六年秋興帖,第五 (寺田人・川嶋ぱんだ・木田智美・瀬越悠矢・小林苑を・林雅樹・山本敏倖・内田麻衣子・関根誠子・佐藤りえ・望月士郎)



寺田人(「H2O」「ふらここ」)
午前帰りの文字起こし野菊咲く
鏡には今日の自分や秋の朝
団栗の十個少年豊かにす
原色の豊かな村に小鳥来る
星月夜売る悪徳業者の噂
星を織り銀河成しつつ船は行く
不幸なら笑ってみせよ草の花



川嶋ぱんだ(ふらここ、船団の会)
夜長し北白川の夜は特に
馬鈴薯や顔に馴染まぬ化粧水
虫の音や昭和ポルノの映画券
枯蔓やにょっぽり青い空を引く




木田智美(関西俳句会「ふらここ」)
団長は赤の祭の字の法被
銀杏や神社の奥の保育園
ひとまわりふたまわり小さくなる狛犬
半分は妖怪である秋祭
夜店抜けこんなに短かったっけ
玉蜀黍ふたり目の子はベビーカー
りんご飴で太鼓をすこしだけ鳴らす



瀬越悠矢
過去帖の長き余白や虫の声
聖書繰るとんぼうの翅繰るごとく
暮の秋ホテルの壁に水の音



小林苑を (「里」「月天」「塵風」所属)
アクリルの球形の椅子水の秋
巨なる遺産あかとんぼが群れて
指組めば黄落の黄の昏くなり



林雅樹
残暑のドーム気球に乗りてまゆゆかはいい
柵はみ出て揺るゝ一葉や紅葉せる
宵闇や歌おそろしき女性デモ



山本敏倖
魂魄を入れ替え真葛原に立つ
わたくしに時間の戻る秋の暮
かの紅葉はなれて酒呑童子かな
創世の神の顔するぶどう棚
どんぐりのドヴォルザークは道程




内田 麻衣子(野の会同人)
絵の端のガラス鈍色秋の宿
釣瓶落しレニ・リーフェンシュタールの黄金(きん)睫毛
金紅葉眇めて見入るうさぎの眼




関根誠子
四菱の塀の孔から残り菊
似て違ふ厄介のさて茨の実
秋思やや鰓などあらばをかしからむ



佐藤りえ
連れられて犬は十日の菊嗅げり
追いやれば硝子の外の秋の蠅
鉄球に崩るるビルや鰯雲
儀の文字の小さし蜻蛉飛びまはる
秋郊や等高線のみぎひだり




望月士郎 (「海程」所属)
長き夜の壁紙にバラ反復す
捨案山子ゴッホの父の名もゴッホ
血を流さぬやうに林檎を縦切りに