寺田人(「H2O」「ふらここ」)冬暁や手を成す骨の夥し
背骨より凍りつつあり研究棟
凍星を眺めアイスの棒の味
古神社立ち入り禁止小夜時雨
雪嶺や寝返り小さき同衾者
着ぶくれの中心にある心の臓
口の端の熱燗舐め取られ夜更け
曾根 毅(「LOTUS」同人)寄せ鍋に顔の長きが集いけり
冬の灯を浮かべておりし関ヶ原
寒旱田に囲まれし墓一基
陽 美保子(「泉」同人)改札は黙つて通る日短か
どんみりと真鯉のゐたる神の留守
石垣に水影あそぶ一茶の忌
関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会所属)小春夜の遠目に若きひとの夫
息弾むマスクの引つ付いて困る
鏡の顔の笑むまで笑んで冬深し
小林苑を幾頭も鯨の過ぎて目覚めけり
波高ければ幻の捕鯨船
さよならくぢら渋谷五叉路の信号
飯田冬眞ママチャリに枯葉を乗せて家探し
猫の尾のしたたかな影白障子
凩や死者も生者も海より来
煤逃げの連れは愛犬メロンパン
鉛筆を無為に尖らせ討入り日
青空や目ばかり動く暦売
熱燗の腸(わた)の火照りを持ち歩く