2014年12月26日金曜日

 平成二十六年冬興帖、第五 (下坂速穂・岬光世・依光正樹 ・依光陽子・網野月を・髙坂明良・水岩瞳)


下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
日向ぼこ昨日と同じかほ撫でて
すいすいと枯れし芒の中を誰
人も家も忘れられたる冬木かな



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
冬靄に高き翼の隠れしか
葱を買ふ二人の仲をいつはらず
白日の硝子の芽吹く聖樹かな




依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
手を打たば一つひらくか帰り花
手が朱くなつて来たりし落葉掻
木の葉散るきのふのことがよみがへる



依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
弾け飛ぶ遠さ低さを冬の水
炭色の冬に生まれて土の上
枯菊として山菊の香を放つ



網野月を
終バス前に一人の散歩月冴える
月冴えるコンビニの灯に人の群れ
群れ人のやがて去り行き冬の月



髙坂明良
白鳥は日没までの自由帳
温室をすべて壊して父を討つ
手錠して心臓までも初氷
指先を冬薔薇にし逢ゐたき夜
極月や記憶の墓を荒らしけり
ひらがなに変えて兎をなでている
縄跳びの傀儡は壊れるまで哂う



水岩瞳
大福餅冬めくものの一つかな
本閉ぢて冬の伊吹を見よと言ふ
マフラー巻いて闇の世間に紛れ込む