2015年4月24日金曜日
平成二十七年春興帖、第八 (佐藤りえ・中西夕紀・小林かんな・岡村知昭・関根誠子・中山奈々)
●佐藤りえ
父とゐて子とゐて犬の春休み
をちこちの砂地ふくらむ地球かな
かぎろひに拾ふ人魚の瓦版
末黒野のあたまのやうな黒光り
相談に行くなら土地の春の馬
●中西夕紀
積む本を衝立にして朝寝かな
脳に蜜醸せる雪解雫かな
につぽんと唇(くち)をはじきぬみどりの日
父死後の兄を畏るる花おぼろ
●小林かんな
春眠や別の躯に戻りたる
炎症と呼ぶ蝶々の半身を
口を出て素直な言葉山桜
●岡村知昭
マンションになりたがる丘春の雨
兄とするペットボトルの空っぽを
チューリップ訃報に死因なかりけり
弟の弟子いるはずの河原かな
なのはなを怖くなくなり塾帰り
●関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会)
風つひに音たて始む桜かな
焼き過ぎて噛めないところ春の雪
かみさぶる箪笥春愁を寝かせ置く
「帰ろう」のあとの長くて黄水仙
●中山奈々(百鳥・里)
吾の喉は砂漠やてのひらに柳絮
彼の心臓にぽつぽつすみれかな
汝に踏まれたき桜蘂降りにけり
2015年4月17日金曜日
平成二十七年春興帖、第七(第83回海程秩父俳句道場編:五島高資・堺谷真人・望月士郎・北川美美・筑紫磐井・宮崎斗士・関悦史)
五島高資
わたくしと全てと春の露にあり
朝ぼらけ瀬瀬に散り込む山桜
かがなべて落ち合う春の垂水かな
風車回す光となりにけり
山肌の八重に波打つ桜かな
おんころころ夕日に沈む春の塵む
ペリリューへめぐる緑や川明り
堺谷真人
春の川岩むらは沐浴のごと
花吹雪幻獣の骨立ちあがる
無意識の底へと向かふ蝌蚪の列
鬣をふるふあひだも菜種梅雨
花冷や驛長室の黒金庫
褶曲の崖赤裸々に養花天
小屋ほどな落石ありて花すみれ
望月士郎
花冷のひと日卵を割る仕事
長く薄く母の一列桜山
陽炎ふやゴッホに耳を貸してより
花の闇頭上に巨石ゆっくり落つ
北川美美
浮きしままあぶく流るる春の川
朽ちるとはボルトの溝のようなこと
春泥を電気自動車ぴっかぴか
長瀞の岩の隙間の木の芽吹き
釦押す熊にピンスポ幾たびも
石にある石の歴史をみて春や
細長き旅館の廊下奥に春
筑紫磐井
ファインダーはみ出す岩の余寒あり
雨もよし雨にならざる花もよし
養浩亭照らず曇らず朝ざくら
春寒の岩は黙つて時代(とき)かたる
老人と青年は佳し木瓜が祝ぐ
宮崎斗士
助走の前小さくうなずいて陽炎
風のあとは風の余韻があり花時
一小節ずつ持って集まるすずめの子
春の土に穴ぼこやわが少年期
ふきのとう森は理科室めく明るさ
芽吹きという約束ひとつずつ秩父
関悦史
巨岩落ち来て二ヶ月の春の川
褶曲極まる断崖の前蝿生まる
俳句は難解なりとバナナは半裁なり
2015年4月10日金曜日
平成二十七年春興帖、第六 (大塚凱・五島高資・飯田冬眞・飯田冬眞・ふけとしこ・水岩瞳・寺田人)
大塚凱(俳句同人誌「群青」副編集長)バレンタインの日の下駄箱が砂を吐く
がうななら棲みてもみたい貝だこと
卒業の車窓に凭れゐる母よ
種を播く人のはやさで雲去りぬ
夕空と夜空のあひのアドバルーン
朝寝して海を見にゆく金がない
五島高資それぞれのなかいまに花ふふみけり
春の野に山羊の跳び出すひふみかな
かがなべて落ち合う春の垂水かな
とこなめや海へといそぐ春の水
歯を磨く鏡の奥や下萌ゆる
飯田冬眞(「豈」「未来図」)桃の日や母ひつそりと髪を染め
うがひする父の人生鳥帰る
恋猫の声太きこと二度寝妻
竜頭巻く指の痛みや地虫出づ
表札にアルファベットやエリカ咲く
砂を掻く猫は尾を立て梅真白
自転車に舌打ちさるる日永かな
坂間恒子バンザイのうしろに回る風車
深海の尾ひれのそよぐ夕桜
囀りや鏡のなかを人がくる
ふけとしこ馬に塩足してやらねば遠桜
馬柵に肘乗せて桜の風受けて
子へ通ひ親へ通ひて桜どき
水岩瞳なつかしむ時が来るのだ受験子よ
春風に飛行機雲の三本め
句は一年寝かせ給へと誓子の忌
汐干狩父の大きな手をつかみ
空は青 花は桜とまだ言ふか
寺田人(「H2O」「ふらここ」「くかいぷち」)死してなほ好物喰はす彼岸かな
新しき靴踏まれたり春の暮
いつ呑むか朧月夜に呑まずして
春の波ちらちら夢の残骸よ
水温む火星の少し近寄りて
春の夢終はりに誰か呟きぬ
春過ぎやうとし捕まえてほらここ
2015年4月3日金曜日
平成二十七年春興帖、第五 (夏木久・望月士郎・川嶋ぱんだ・花尻万博・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)
夏木久春山へ鳥歩きだす影を曳き
ヘラクレス鉢巻をして耕せり
犬ふぐり地球は2月29日
ああだめよ花はさつさと降ろしなさい
花ふぶき夢は浅瀬に棄てしまま
望月士郎 (「海程」所属)真夜中のしくみ窓辺の風信子
涅槃図の巻き上げられて釈迦回転
春眠を縞柄にしてブラインド
川嶋ぱんだ(船団の会、ふらここ、( )俳句会)運送屋タバコを吸えば春兆す
アイドルの臍から湧いて水の春
たんぽぽや区画整理のまだ途中
犬ふぐりのナイルの泪ほど青い
花尻万博永き日や柔らかき幕子を包み
霞み易き駅舎に舟の繋がるる
寄る辺無き水菜と吾が家系かな
歌詠みに敵はぬ桜荒びけり
耳を引く海の汽笛卒業よ
下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)花に色莟に色の寝釈迦かな
あつまりてはなれて春は浮寝かな
雫して燕来る日もきつと雨
岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)花馬酔木宿泊街へ荷を運び
高坏に粒を数へて雛あられ
壺焼の身のぷるぷると捩ぢり出て
依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)春寒のおもて通りをまつすぐに
木の上の木の下の音余寒かな
種袋音して種の生きてゐる
依光陽子 (「クンツァイト」「ku+」「屋根」)突き挿せる棒や芽吹を感じつつ
橋青く彼方も青く鳥雲に
蓬摘んで雲を圧したる如くなり
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