平成二十七年春興帖、第八 (佐藤りえ・中西夕紀・小林かんな・岡村知昭・関根誠子・中山奈々)
●佐藤りえ
父とゐて子とゐて犬の春休み
をちこちの砂地ふくらむ地球かな
かぎろひに拾ふ人魚の瓦版
末黒野のあたまのやうな黒光り
相談に行くなら土地の春の馬
●中西夕紀
積む本を衝立にして朝寝かな
脳に蜜醸せる雪解雫かな
につぽんと唇(くち)をはじきぬみどりの日
父死後の兄を畏るる花おぼろ
●小林かんな
春眠や別の躯に戻りたる
炎症と呼ぶ蝶々の半身を
口を出て素直な言葉山桜
●岡村知昭
マンションになりたがる丘春の雨
兄とするペットボトルの空っぽを
チューリップ訃報に死因なかりけり
弟の弟子いるはずの河原かな
なのはなを怖くなくなり塾帰り
●関根誠子(寒雷・炎環・や・つうの会)
風つひに音たて始む桜かな
焼き過ぎて噛めないところ春の雪
かみさぶる箪笥春愁を寝かせ置く
「帰ろう」のあとの長くて黄水仙
●中山奈々(百鳥・里)
吾の喉は砂漠やてのひらに柳絮
彼の心臓にぽつぽつすみれかな
汝に踏まれたき桜蘂降りにけり