2015年4月17日金曜日

平成二十七年春興帖、第七(第83回海程秩父俳句道場編:五島高資・堺谷真人・望月士郎・北川美美・筑紫磐井・宮崎斗士・関悦史)




   五島高資
わたくしと全てと春の露にあり
朝ぼらけ瀬瀬に散り込む山桜
かがなべて落ち合う春の垂水かな
風車回す光となりにけり
山肌の八重に波打つ桜かな
おんころころ夕日に沈む春の塵む
ペリリューへめぐる緑や川明り



   堺谷真人
春の川岩むらは沐浴のごと
花吹雪幻獣の骨立ちあがる
無意識の底へと向かふ蝌蚪の列
鬣をふるふあひだも菜種梅雨
花冷や驛長室の黒金庫
褶曲の崖赤裸々に養花天
小屋ほどな落石ありて花すみれ



   望月士郎
花冷のひと日卵を割る仕事
長く薄く母の一列桜山
陽炎ふやゴッホに耳を貸してより
花の闇頭上に巨石ゆっくり落つ




   北川美美
浮きしままあぶく流るる春の川
朽ちるとはボルトの溝のようなこと
春泥を電気自動車ぴっかぴか
長瀞の岩の隙間の木の芽吹き
釦押す熊にピンスポ幾たびも
石にある石の歴史をみて春や
細長き旅館の廊下奥に春




   筑紫磐井
ファインダーはみ出す岩の余寒あり
雨もよし雨にならざる花もよし
養浩亭照らず曇らず朝ざくら
春寒の岩は黙つて時代(とき)かたる
老人と青年は佳し木瓜が祝ぐ




   宮崎斗士
助走の前小さくうなずいて陽炎
風のあとは風の余韻があり花時
一小節ずつ持って集まるすずめの子
春の土に穴ぼこやわが少年期 
ふきのとう森は理科室めく明るさ
芽吹きという約束ひとつずつ秩父




   関悦史
巨岩落ち来て二ヶ月の春の川
褶曲極まる断崖の前蝿生まる
俳句は難解なりとバナナは半裁なり