2015年4月10日金曜日

平成二十七年春興帖、第六 (大塚凱・五島高資・飯田冬眞・飯田冬眞・ふけとしこ・水岩瞳・寺田人)



大塚凱(俳句同人誌「群青」副編集長)
バレンタインの日の下駄箱が砂を吐く
がうななら棲みてもみたい貝だこと
卒業の車窓に凭れゐる母よ
種を播く人のはやさで雲去りぬ
夕空と夜空のあひのアドバルーン
朝寝して海を見にゆく金がない



五島高資
それぞれのなかいまに花ふふみけり
春の野に山羊の跳び出すひふみかな
かがなべて落ち合う春の垂水かな
とこなめや海へといそぐ春の水
歯を磨く鏡の奥や下萌ゆる



飯田冬眞(「豈」「未来図」)
桃の日や母ひつそりと髪を染め
うがひする父の人生鳥帰る
恋猫の声太きこと二度寝妻
竜頭巻く指の痛みや地虫出づ
表札にアルファベットやエリカ咲く
砂を掻く猫は尾を立て梅真白
自転車に舌打ちさるる日永かな



坂間恒子
バンザイのうしろに回る風車
深海の尾ひれのそよぐ夕桜
囀りや鏡のなかを人がくる



ふけとしこ 
馬に塩足してやらねば遠桜
馬柵に肘乗せて桜の風受けて
子へ通ひ親へ通ひて桜どき



水岩瞳
なつかしむ時が来るのだ受験子よ
春風に飛行機雲の三本め
句は一年寝かせ給へと誓子の忌
汐干狩父の大きな手をつかみ
空は青 花は桜とまだ言ふか



寺田人(「H2O」「ふらここ」「くかいぷち」)
死してなほ好物喰はす彼岸かな
新しき靴踏まれたり春の暮
いつ呑むか朧月夜に呑まずして
春の波ちらちら夢の残骸よ
水温む火星の少し近寄りて
春の夢終はりに誰か呟きぬ
春過ぎやうとし捕まえてほらここ