2015年5月29日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第五 (水岩瞳・小林かんな・神谷波・田中葉月・福田葉子・羽村 美和子)




   水岩瞳
おととひもきのふもけふもさくらかな
桜まじ歌ふは「わたしの城下町」
   クラシック喫茶
木屋町桜ここはミューズがあつた場所
ほめられてばかりじやさくらもつまらない
わびさびも細み軽みも散る桜


   小林かんな
ふところに夏うぐいすと亀の池
若鷹の心にかなう風来たる
一日を荒ぶる青鷺でありぬ


   神谷波 (「豈」)
古都の空しつとりナイチンゲール鳴く
煙突に仲睦まじく鸛
物乞ひもかもめも薄暑の甃
そこここに遺跡そこここに罌粟の花
墳丘の内部暴かれ罌粟の花
飯粒や山鳩の鳴く谷若葉
獣らは息をひそめて椎の花


   田中葉月
白れんや大地は胎児さしだしぬ
骨壷のガタガタ言ひぬ濃紫陽花
どうしてもあなたでは駄目水鶏鳴く
花薊生まれも育ちもCity girl
消えさうな今日と言ふ日の白牡丹
これやこの男心や松の芯        
                                                                                                

   福田葉子
たまさかに人を疎みぬ花の兄
アンニュイの午后やアネモネの濃紫
雲珠櫻むしろ紫長岡忌
藤の房黄泉のひかりを宿しつつ
青梅に微量の青酸深きひる


   羽村 美和子(「豈」「WA」「連衆」)
三角定規なぞって五月の森開く
白薔薇鎖骨ラインを出してみる
青葉闇奥に仮面が吊されて
青水無月 戦に征きたい人は手を
永遠にダンボ空飛べ花水木





2015年5月22日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第四 (小野裕三・早瀬恵子・浅沼・璞・林雅樹・網野月を・佐藤りえ)




小野裕三 (「海程」「豆の木」)
飛花落花基礎科教室やや暗く
万有引力の降る町花ミモザ
青空の定義はどこだ水芭蕉

 
早瀬恵子 (「豈」同人)
一瞬を光り溢れる花鳥かな
艶書かなタータンチェックに花篝
この渓に新たな時や鳥の春


浅沼 璞
右にやや傾ぐ癖あり姥桜
総身の皺伸ばさばや桜守
牡丹めく唇めくれ端女郎
花魁は御歯黒溝で目白押し
やじろべゑ囀りのむず痒くして
囀りを凡人あたら上の空
百千鳥串二万本塩千噸



林雅樹 (「澤」)
幔幕の雨に濡れたる桜かな
燕や主死にたるゴミ屋敷
明治座に指原莉乃や暮の春
新樹に消ゆる下着泥棒三鷹の怪


網野月を
空炬燵ねこに苦労と意地と見栄
憐れなり子猫の視線に動くもの
この頃はスリムなパンツ仔猫小猫
わがままだけど嘘はつかない子ネコ
母の日に父の朝寝を起こす猫


佐藤りえ
カーテンなくて桜の見える部屋
シベリアに水疱瘡のやうな穴
皇帝に蝶の脚ある砂漠かな
宇宙塵載せて額のプレパラート
満身の鱗剥落人となる


2015年5月15日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第三 (東影喜子・ふけとしこ・望月士郎・堀本 吟・山本敏倖・仲寒蟬)




東影喜子
囀や君が笑うといふ事件
特急の過ぎて菜の花畑なり
桜蘂降るよお母さん聞いて



ふけとしこ
頬白に朝来る今日の喉を張り
郁子咲きしことを一行加へけり
捨てらるる家一八の群れ咲くも



望月士郎 (「海程」所属)
ひとりの日巣箱の穴に目を落す
足裏にマリアの凹み鳥雲に
とおりゃんせ花降る夜のうしろまえ



堀本 吟     
たんぽぽの絮はまあるい地球なり
おやしらずが横へ出てきたつくしんぼ
おやしらず抜いた大人や時計草
老鶯や笑気麻酔の部屋に居て
手術後の目ざめ窓から夏がらす



山本敏倖(「豈」「山河」)

青眼の切っ先が来る藤の影
化石まで韋駄天と紹興酒かな
あやとりの宇宙を描く炭酸水
昼寝は甘酢甘酢らしくする
黒日傘をはみ出す尻尾昼の月




仲寒蟬
真昼間の星とも見えて花辛夷
登りゆく竜と交差し落雲雀
葬の村いきなり連翹など咲かせ
街騒を力としたり初燕
蝌蚪の死をなかつたことにして長雨


2015年5月8日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第二 (関根かな・中村猛虎・山田露結・夏木 久・坂間恒子・堀田季何・大井恒行)




関根かな
あたたかき日にしてください散骨は
一瞬も永遠も知るしやぼん玉
陽炎の出口にもうひとりのわたし


中村猛虎(なかむらたけとら。1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。)
わたくしを数えて下さい愛鳥週間
さくらさくら僕が残せたものは何だ
花の宴つまみはナトリと決めてます
車前草やクロスワードは埋まらない
君くれし玩具の指輪吊り忍
向日葵のネイルが捲る堕落論



山田露結(「銀化」)
夏近き水の破片としてわれら
緑陰や人形の顔ひび割れて
蠅を打つ妻眺めゐて午後長し



夏木 久
さう言へばそんな仕事も五月雨の
薔薇園のとほい渚を咀嚼せり
缶蹴りのそれはそもそもボブ・ディラン
原発の風に吹かれて鳥雲に



坂間恒子
うぐいすの声と声とがボッティチェリ  
無国籍のおとこありけり桜貝
山門のさくら青空はいらない



堀田季何(「澤」「吟遊」)
花の雨巫女の囈言(うはごと)聴くごとく
花の樹を抱(いだ)くどちらが先に死ぬ
花の雲鳥容れたれば鳥殺す
月射せば獣の匂ひ犬桜
桜咲く民の幸薄るるごとく
花衣脱ぐや顔だけ汝に向け



大井恒行
山の鳥くだりて来たれ花こぶし
鳥とべる孤影は澄みて鳥世界
わが鳥の四月の羽の濡れこぼる

平成二十七年春興帖、追補2 (仲寒蟬)



仲寒蟬
蛇出でて蛇の長さの穴ひとつ
飛行機の巨大な影や潮干狩
おいそれと回らぬつもり風車
額縁に切り取られたる海市かな
下駄箱に閉ぢこめられてゐる春愁
花の山仮設トイレの混み具合
水門の脇に水路や春惜しむ

2015年5月1日金曜日

平成二十七年花鳥篇、第一(杉山久子・曾根 毅・福永法弘・内村恭子・木村オサム・前北かおる・仙田洋子・陽 美保子)



 杉山久子
雲雀野に雲ばかり見て長居せり
薔薇は蕾解きつつ雫こぼしつつ
梨の花ほどの白さの名刺受く


 曾根 毅(「LOTUS」同人)
金屏の冥きところに山桜
巣箱からこの世の空を見ていたる
閑かさや死を待つ人と風見鶏


 福永法弘(「天為」同人、「石童庵」庵主、俳人協会監事)
好色者すきものと我が名呼ばれん初桜
巣立鳥虚子に三高時代あり
バスで行く修学旅行花水木


 内村恭子(「天為」同人)
春宵や羽あるものが帰る水
夕闇にまぎれ飛びたる蚊喰鳥
闇深くなれば夜鷹の高き声
青葉木菟静かに首をひねりたる
歯朶青し異形のものが浮遊する
水無月の森の夜明けの水蒸気
鳥たちの目覚むる時や虹生るる


 木村オサム(「玄鳥」)
分度器を透かして桜見てをりぬ
夜桜やぬっと現る両陛下
ちちははを見かけしあとの花筵
思い出し笑いのかたち夕桜
晩餐のユダの盃飛花一片
死ぬまでは少し離れて見るさくら
平成は貧血の顔花明り


 前北かおる(「夏潮」)
若桜いつかももいろクローバー
朱鷺色を重ねて乙女椿なる
絵の道具取り散らかして若草に


 仙田洋子
流し雛バンザイクリフまで来ぬか
   お大事に
春の風邪引きし女に会へぬまま
先生が先に着いたる春の川


 陽 美保子(「泉」同人)
白文と読み下し文囀れり
戯れに鴨追ひかけて残る鴨
曇天は雲ひとつなし揚雲雀



平成二十七年春興帖、追補 1 (林雅樹・西村麒麟・羽村美和子・竹岡一郎・東影喜子・山本敏倖・大井恒行)



    林雅樹(「澤」)
雪解の原に童貞処女乱舞
人肉市場子ども解体ショーや春
西行法師死ぬの今でしよ花の下


  西村麒麟
涅槃して干物の国の駿河かな
春風や干物を買つて靴買つて
遠足の変な仏画を見てをりぬ


  羽村 美和子
花菜畑どこから切り込む評論家
花吹雪感染経路解明中
花散らす遊びせんとや花の鳥


  竹岡一郎(「鷹」同人)
飯蛸を切つて幾つも恋をして
花ふぶく夜は咆哮の二人かな
土筆抜きつつ閨怨を鎮めつつ


  東影喜子
花冷や切られて豆腐つぎつぎ浮く
褒めすぎる人と野遊の花を摘む
講堂に鳥迷いこむ花曇



  山本 敏倖(「豈」「山河」)

亀戸天神五句
境内をのの字にめぐり藤に着く
藤の香と水霊を割り亀二頭
満開の藤の間に立つスカイツリー
道真の語り部となる亀と鴨
藤棚の下は黄泉への非常口


  大井恒行
かがやきの葉のさびしさをよぎりけり
鳥声ののぼる欅の芽などあらん
行く春の鳥の恩寵 鳥語よ我に