東影喜子囀や君が笑うといふ事件
特急の過ぎて菜の花畑なり
桜蘂降るよお母さん聞いて
ふけとしこ頬白に朝来る今日の喉を張り
郁子咲きしことを一行加へけり
捨てらるる家一八の群れ咲くも
望月士郎 (「海程」所属)ひとりの日巣箱の穴に目を落す
足裏にマリアの凹み鳥雲に
とおりゃんせ花降る夜のうしろまえ
堀本 吟たんぽぽの絮はまあるい地球なり
おやしらずが横へ出てきたつくしんぼ
おやしらず抜いた大人や時計草
老鶯や笑気麻酔の部屋に居て
手術後の目ざめ窓から夏がらす
山本敏倖(「豈」「山河」)
青眼の切っ先が来る藤の影
化石まで韋駄天と紹興酒かな
あやとりの宇宙を描く炭酸水
昼寝は甘酢甘酢らしくする
黒日傘をはみ出す尻尾昼の月
仲寒蟬真昼間の星とも見えて花辛夷
登りゆく竜と交差し落雲雀
葬の村いきなり連翹など咲かせ
街騒を力としたり初燕
蝌蚪の死をなかつたことにして長雨