浅沼璞欄干に亀吊さるる放生会
鶴翁が旧居さまよふ狭霧かな
霧雨の霧を嗅ぎ分け来よ鬼よ
白露や篠竹たわむ付け睫毛
月天心猫脚の椅子動きだす
月光の階段を這ふ手足かな
障子貼る手長足長ろくろ首
中村猛虎(なかむらたけとら。1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。)黒葡萄その一粒の地雷原
横浜港秋冷を密輸する
鏡から出てこぬ妻よ啄木鳥よ
秋霖の隙間を埋める母の息
女から紐の出ていて曼珠沙華
鯵叩くテレビは吉本新喜劇
あっそうか引きこもっている蓑虫か
西村麒麟茸から茸へ跳んで逃げしもの
集まつて大小の毒茸かな
しろしろと頭の小さき茸かな
坂間恒子(「豈」「遊牧」)封を切るブラックペッパー蟲の夜
銀河系とぎれずに鳴く昼の虫
燧石大音声の実むらさき
五島高資色葉散る下天の内やホルトノキ
うつせみの玻璃にゆがむや秋燈
寝過ごしてひとり降り立つ銀河かな
真矢ひろみ骨盤を落とし肋骨を上げて秋
月天心アポトーシスの始まりぬ
意味ならばゑのころぐさに聞きなさい