2015年11月13日金曜日

平成二十七年秋興帖 第八 (浅沼璞・中村猛虎・西村麒麟・坂間恒子・五島高資・真矢ひろみ)



浅沼璞
欄干に亀吊さるる放生会
鶴翁が旧居さまよふ狭霧かな
霧雨の霧を嗅ぎ分け来よ鬼よ
白露や篠竹たわむ付け睫毛
月天心猫脚の椅子動きだす
月光の階段を這ふ手足かな
障子貼る手長足長ろくろ首



中村猛虎(なかむらたけとら。1961年兵庫県生まれ。「姫路風羅堂第12世」現代俳句協会会員。)
黒葡萄その一粒の地雷原
横浜港秋冷を密輸する
鏡から出てこぬ妻よ啄木鳥よ
秋霖の隙間を埋める母の息
女から紐の出ていて曼珠沙華
鯵叩くテレビは吉本新喜劇
あっそうか引きこもっている蓑虫か


西村麒麟
茸から茸へ跳んで逃げしもの
集まつて大小の毒茸かな
しろしろと頭の小さき茸かな



坂間恒子(「豈」「遊牧」)
封を切るブラックペッパー蟲の夜
銀河系とぎれずに鳴く昼の虫
燧石大音声の実むらさき




五島高資
色葉散る下天の内やホルトノキ
うつせみの玻璃にゆがむや秋燈
寝過ごしてひとり降り立つ銀河かな



真矢ひろみ
骨盤を落とし肋骨を上げて秋
月天心アポトーシスの始まりぬ
意味ならばゑのころぐさに聞きなさい