2015年11月20日金曜日

平成二十七年秋興帖 第九 (秋月祐一・青木百舌鳥・飯田冬眞 ・宮﨑莉々香・北川美美・大井恒行・筑紫磐井)


秋月祐一(船団の会)
楽しげな手話のおしやべり小鳥くる
土瓶蒸し父と慕つてゐる人と
ペン先はぬるま湯のなか秋惜しむ



青木百舌鳥(夏潮)
案山子ともスピード違反抑止とも
毛見なぞに非ずよ見惚れゐたるだけ
栗の毬足の親指このあたり
のぼり来て籠の茸のしづみをる
秋空が近しレタスに甜菜に




飯田冬眞 
饒舌なふりは処世と法師蟬
スイッチをつけては消しぬ夜長かな
ちちろ虫母は日記を盗み読む
海遙か無臭の菊を供へけり
虫の闇木馬に体ゆだねをり
十三夜記憶の紐を解くやうに
残菊や紫煙まみれの未定稿



宮﨑莉々香
食べられてしまふかまきりとかまきり
朝顔に吸ひ取らるるが時間なり
パソコンのうへの柚子から黄色くなる




北川美美
秋灯の沈みつつ揺れ野外劇
鳥と鳥ぶつからず飛ぶ昼の月
印度とか新世界とか林檎の名



大井恒行
あさがおに山川のかげ陽のなげき
晩夏晩秋はんざきを飼い首長し
秋ついり魔女をさびしむ窓の雨





筑紫磐井
秋日傘が行くそつけなきメロドラマ
兜太の字溢れて八月らしき街
銀座にも芋名月の老舗かな