2015年11月6日金曜日

平成二十七年秋興帖 第八 (下楠絵里・田中葉月・豊里友行・水岩瞳・羽村 美和子・下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子)



下楠絵里(「ふらここ」)
台本の端に折り目や鰯雲
やはらかく変はる表情草の花
老蝶を追ひぬ真白の衣装にて
秋澄むや楽屋を発つときの呼吸
独唱の指先満月に触るる
照明のなかのしづけさ文化の日
舞台いま木材となる暮の秋



田中葉月
海苔巻きにまいてみやうか花野風
みどり児のおくるみ真白あけびの実
白桃や刃先にエロスほとばしる




豊里友行
花火咲くじょうずに島を切り売りて
空高く積み木の沖縄大和口(ウチナーヤマトグチ)
西陽射す白蛇と化すアスファルト
売りません幾度曲がれど石敢當(イシガントウ)
ジャスコになっちゃった少年の水平線
海を売り舟より花札の落ち葉
散る花火苔のむすまで埋立地




水岩瞳
ゼロ戦は飛ぶ八月の海の底
とこしなへ鬼が隠れし薄原
愚痴その他月光仮面のおじさんに
まだ無月女将掲げる紙の月
ややこしき吾に辟易とはの秋




羽村 美和子 (「豈」「WA」「連衆」)
秋うらら休日倶楽部に十返舎一九
木犀の香の渦巻いて銀河系
真夜中の胎動一つ烏瓜
貧しさのこんなに背高泡立草




下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
風の音音楽の音秋の音
おもなみと云ひ間違へて秋風に
けふの風に遊びのありし冬仕度




岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
姿よき人来る頃やくわりんの実
火恋し椅子の丸みを撫でてゐる
うちとけて栗飯のある談義かな




依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
色鳥や歩いて二人だけの径
手にのせてうれしき木の実降りにけり
初紅葉きのふの傘の汚れしまま




依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
ひろびろとかなしき虫の原に佇つ
其と見れば秋の芝なり匂ひ立つ
朱を点じては暗がりへ尉鶲