2016年2月26日金曜日

平成二十八年歳旦帖 第六 (下坂速穂・岬光世・依光正樹・依光陽子・竹岡一郎・陽 美保子)



下坂速穂(「クンツァイト」「屋根」)
ああ云へばかう云ふ人と年忘
人呼んで雀を呼んで初箒
葉は空の水の匂ひや初昔



岬光世 (「クンツァイト」「翡翠」)
結ひ上げし髪に挿頭すや初御空
七草菜丈を同じうしてゐたる
女正月御礼参りの絵馬買うて



依光正樹 (「クンツァイト」主宰・「屋根」)
読まれたる店の字ひとつ年詰まる
座はりたる子を立たしめて御慶かな
消印のなきがうれしき賀状来る



依光陽子 (「クンツァイト」「屋根」「ku+」)
大年をひらかんとして撫子は
映るものつぎつぎ飛んで初景色
土壁を離れ二日の夕日かな 



竹岡一郎(鷹)
鈍(のろ)の石抱くや明日は手毬となれ
竹馬の跨ぐ生者やビルや首都
万歳の途まぼろしの屋台群れ
ふるさとの迷路を呪ふ手毬唄
初写真なるや曾祖母振袖着て
手毬子のつくものは我が眼鼻得し
若菜野をサーカスの亀まづ踏みしめ




陽 美保子(「泉」同人)
畦の木を去りゆく年の雪煙
さまざまに旅せし年も初昔
赤松は夕日の木なり餅あはひ